英国通販で返品したのに送料が戻らない 大手17社の覆面調査が映した「規約と実務のずれ」|2026年9月16日版
英国の消費者団体Which?が大手オンライン小売17社を調査したところ、返品した商品の代金や、法律上返金されるべき通常配送費が戻らない事例が相次いだ。
問題の核心は、返品が有料か無料かではない。整った返品規約を掲げる企業でも、実際の返金処理が規約や法的義務に追いついていなかったことだ。
- 覆面調査員12人が、17社から計200点以上を購入して郵送で返品
- 複数社で商品代金や購入時の通常配送費が正しく返金されなかった
- 英国では、オンライン注文の取り消し時に通常配送費も原則として返金対象
- 利用者には返送記録と返金明細を確認する手間が残る
200点超の返品で何が起きたのか
Which?は2026年6月から7月にかけ、英国各地の覆面調査員12人を使って返品手続きを検証した。対象は大手オンライン小売17社。靴下、水筒、パソコン用品など、主に10ポンド未満の小型商品を計200点以上購入し、郵送で返品した。
調べたのは、サイトに書かれた規約だけではない。
- 商品代金が返金されたか
- 購入時に支払った通常配送費が戻ったか
- 返品送料は無料だったか
- 返金まで何日かかったか
- 手続きや案内が分かりやすかったか
Which?の調査結果では、AmazonとJohn Lewisがいずれも総合98%で上位となった。両社は商品代金と通常配送費を一貫して返金し、返品も無料だった。John Lewisは、手続きの各段階で状況を知らせた点も評価された。
一方、最下位のMatalanは総合28%。商品代金が返金されたのは12件中7件で、購入時の配送費は12件すべてで返金されなかった。
調査例では、3.99ポンドの商品に購入時の送料3ポンド、返品送料2.99ポンドがかかった。返金を受けられなかった利用者は計9.98ポンドを失ったことになる。本来、自己負担となり得るのは返品送料の2.99ポンドだった。
「返品送料」と「購入時の送料」は別物
このニュースを理解する鍵は、2種類の送料を分けることにある。
返品のための送料
利用者が単に気が変わって商品を返す場合、英国では販売店が事前に条件を示していれば、返送費を利用者負担にできる。つまり、有料返品そのものが直ちに違法というわけではない。
商品に欠陥がある場合や説明と異なる場合は扱いが変わり、利用者に返送費を負担させるべきではないとされる。
購入時に支払った通常配送費
オンライン購入を法定期間内に取り消した場合、販売店は商品代金に加え、購入時の通常配送費も返す必要がある。
英国政府の返品・返金に関する案内によると、利用者は通常、商品を受け取ってから14日以内に取り消しを通知でき、その後さらに14日以内に返品する。販売店は商品を受け取ってから14日以内に返金しなければならない。
ただし、速達など割高な配送方法を選んだ場合、通常配送との差額までは原則として返金されない。
ここがポイント: 「返品時の送料は自己負担」という表示があっても、購入時に払った通常配送費まで返金不要になるわけではない。
規約が正しくても、返金処理で失敗する
今回の調査で特に重いのは、サイト上の説明と実際の処理が一致しなかった点だ。
Sports DirectとHouse of Fraserは、Which?による返品規約の評価では満点だった。ところが実地調査では、Sports Directは通常配送費を一度も返金せず、House of Fraserも返金したのは12件中1件だけだった。
River Islandでも通常配送費の返金はゼロ。Pets at Homeは、返品された商品の代金自体を返金したのが12件中6件にとどまった。
企業側の説明も確認しておく必要がある。Sports DirectとHouse of Fraserは、Which?から注文の詳細が提供されなかったため個別事例を検証できないとし、正当な顧客の懸念には対応する考えを示した。Matalanも、対象取引の情報を求めて事例を調査すると説明している。
したがって、この調査だけで各社の返品処理全体を断定することはできない。各社11件または12件という限定されたテストだからだ。それでも、複数の大手で同じ種類の返金漏れが繰り返された事実は、単発の入力ミスでは片付けにくい。
少額の返金漏れが見逃されやすい理由
返品後、利用者は商品代金が戻ったことだけを見て手続きを終えがちだ。購入時の送料、返品手数料、クーポン、複数商品の一部返品が絡むと、正しい金額はさらに分かりにくくなる。
Which?の調査ではNextの一部事例で、2.50ポンドの返品手数料を戻す一方、4.95ポンドの購入時配送費を残す処理が見られた。その結果、利用者への返金は本来より2.45ポンド少なくなった。
一件ごとの差額は小さくても、利用者が自ら明細を計算し、販売店に連絡しなければ回収できない仕組みなら、多くの未請求分が残り得る。ここでは規約の存在よりも、次の実務が問われる。
- 返金システムが商品代金と通常配送費を正しく分けているか
- 一部返品と全品返品を正確に判定できるか
- 利用者に返金額の内訳を示しているか
- 返送品の到着から返金まで追跡できるか
- 問い合わせ後に不足額を速やかに訂正できるか
店舗へ行けない人ほど手続きの摩擦が大きい
返品方法の違いは、単なる便利さの差ではない。
調査対象外となったM&Sでは、ゲスト購入した10ポンド未満の商品を郵送返品できず、店舗へ持ち込む必要があった。Argosも郵送返品には対応していなかったが、無料の自宅集荷を用意していた。
近くに店舗がない人、移動が難しい人、営業時間内に店へ行けない人にとって、選べる返品手段が少ないことは実質的な負担になる。ライブチャットでの申請やプリンターを前提としたラベルも、利用者によっては障壁だ。
返品制度を評価するときは「無料か有料か」だけでなく、申請、返送、追跡、返金確認まで一人で完了できるかを見る必要がある。
日本の利用者にも関係する論点
英国の法定返品制度は日本と同じではない。日本では、通信販売に訪問販売のような一般的なクーリングオフ制度はなく、返品条件は販売店の表示に左右される部分が大きい。
そのため、英国の「受領後14日以内に取り消しを通知できる」という仕組みを、そのまま日本国内の通販に当てはめることはできない。
ただし、今回表面化した実務上の問題は共通する。
- 商品代金だけでなく、購入時送料や手数料を含めて返金額を確認する
- 返品条件の画面や注文確認メールを保存する
- 追跡可能な方法で返送し、受付番号や発送証明を残す
- 「返品完了」の通知だけでなく、決済口座への着金を確認する
- 海外通販では、販売地や契約条件によって適用される権利が異なる点に注意する
英国で購入した人向けにWhich?は、返品を通知した記録や発送証明を残すよう勧めている。返金不足に気づいた場合は、商品代金、通常配送費、返品費用を分け、何が不足しているのかを販売店へ具体的に示すと確認しやすい。
次に見るべき3つのポイント
今回の覆面調査は、オンライン通販の弱点が「返品規約の不足」だけではないことを示した。次に問われるのは、正しい規約を日々の返金処理へ落とし込めるかだ。
今後は次の3点が注目される。
- 対象企業の是正:指摘された企業が返金システムや従業員向け手順を改めるか
- 明細の透明性:商品代金、通常配送費、返品費用を分けて利用者に表示するか
- 監督機関の対応:同種の返金漏れが広がっている場合、調査や執行につながるか
返品の受付メールが届いても、手続きは終わっていない。最後に確認すべきなのは、口座へ戻った総額と、その内訳である。
