豪州、通販モールにも製品安全の義務化へ――「出品者任せ」を見直す理由|2026年9月3日版
オーストラリアで、オンライン通販の商品安全を「出品者だけの責任」にしないための制度見直しが動き始めた。競争・消費者委員会(ACCC)は、海外業者などが出品するマーケットプレイスにも、危険商品の流通を防ぐ法的義務が必要だと政府に訴えている。
焦点は、通販サイトが単なる取引の仲介者なのか、それとも商品の監視や削除まで責任を負うべきなのかだ。政府は、事故報告の改善、罰則強化、プラットフォームへの義務付けを含む改革作業を財務省主導で進める。
- ACCCは、現行の消費者法ではオンラインモールへの対応に穴があると認めた
- 自主的な安全対策だけでなく、プラットフォームへの法的義務が検討される
- 小型強力磁石、ボタン電池を含む子ども用品、照明器具などで問題が表面化している
- 制度の詳細や導入時期は未確定で、今後の政府案が次の焦点となる
なぜ「販売者を取り締まるだけ」では足りないのか
きっかけは、消費者団体CHOICEが2026年6月に提出した正式な申し立てだ。危険品や禁止品がオンラインモールを通じて大規模に消費者へ届き、子どもを含む購入者に被害が出ているとして、制度の不備を指摘した。
ACCCが9月1日に公表した回答は、この問題提起を認めている。特に重要なのは、オーストラリアには一般消費財の販売前に安全性を包括的に求める一般条項がないという点だ。
現行制度では、特定の商品に安全基準や禁止措置が設けられ、重大な事故を把握した供給事業者には報告義務がある。しかし、海外の多数の業者が短期間で出品し、削除後に類似品を再掲載できる市場では、個々の販売者を追うだけでは間に合わない。
購入者にとっても相手が見えにくい。海外事業者にも豪州消費者法は適用されるが、ACCC自身が説明しているように、実際に修理や返金を受けることは難しく、国内当局が提供できる支援にも限界がある。
ここがポイント: 改革の核心は、事故後に海外の出品者を追う仕組みから、多数の商品を掲載・推薦・決済するプラットフォームが流通段階で危険品を止める仕組みへの転換にある。
危険性は仮定ではなく、商品検査で表面化している
問題は、規格表示の細かな不備だけではない。火災や誤飲につながる商品が実際に販売されていた。
照明器具は131点中73%が規格不適合
オーストラリア放送協会(ABC)が伝えた業界団体の調査では、Temu、AliExpress、Amazon、eBay、Koganなどで購入した照明器具131点のうち、73%が豪州規格に適合していなかった。
さらに、独立した試験所で調べたダウンライト3点はすべて安全試験に不合格となり、熱や炎にさらす試験で発火した。ABCの報道によると、CHOICE側は、オンラインモールで商品を買った人の約6%が危険品による負傷または物的損害を経験したとの調査結果も示している。
子ども用品では事故の進行が速い
ACCCは2026年、飲み込むと重い傷害や死亡につながり得る小型強力磁石を含む玩具について、Amazon、eBay、Kogan、Fruugoに削除を要請した。禁止品を消しても、別の販売者や商品名で再び掲載されれば、監視は振り出しに戻る。
ボタン電池の警告表示を巡っては、ACCCが5月、幼児向けバックパックを扱ったAmazon Australiaを連邦裁判所に提訴した。乳児がボトルを一人で飲めるよう固定する器具も、安全上の懸念から恒久的な販売禁止となった。
これらに共通するのは、購入画面では危険性を見分けにくく、事故が起きたときには取り返しがつかないことだ。価格やレビューだけでは、内部の磁石、電池収納部、耐火性能までは確認できない。
自主ルールは成果を上げたが、参加しない事業者には届かない
オーストラリアでは、制度改革を待たずに自主的な取り組みも進められてきた。ACCCが運営する「Australian Product Safety Pledge」には、Amazon Australia、eBay Australia、AliExpress、Temu、Gumtree、Fruugoが参加している。
ACCCの2026年6月の発表によると、参加事業者は2024~25年度に、安全情報との照合によって3万1,000件を超える出品を削除した。当局から削除通知を受けて取り下げた出品も2,700件を超えた。
数字は自主対策が機能し得ることを示す。一方、限界もはっきりしている。
- 誓約に参加していない通販モールは拘束されない
- 違反時の対応が契約や自主判断に左右される
- 削除した商品と似た出品を継続的に検出する必要がある
- 出品者、輸入者、モール運営者の責任分担が購入者から見えにくい
そのため、政府が検討する「義務化」は自主ルールの否定ではない。既に一部企業が実施している監視、削除、報告を、市場全体の最低基準にできるかが問われている。
義務化で変わり得る三つの場面
具体的な法案はまだ示されていない。ACCCの回答から見える検討項目は、次の三つに整理できる。
1. 出品前と販売中の監視
プラットフォームに義務が課されれば、禁止品リストとの照合、安全表示の確認、削除品の再出品防止などが「任意の善意」では済まなくなる可能性がある。
購入者が事故後に販売者を探す前に、モール側が危険な出品を止められるか。ここが最も大きな変化だ。
2. 事故情報が規制当局へ届く速さ
現在も、供給事業者が死亡、重傷、重い疾病を把握した場合は、原則2日以内の報告が必要だ。政府はこの事故報告制度の改善を検討している。
プラットフォームが返品理由、苦情、レビューなどから危険の兆候を把握している場合、その情報を誰が、いつ当局へ報告するのか。対象となる事故の範囲とともに制度設計の要所になる。
3. 違反のコスト
ACCCは罰則強化も求めている。削除要請に応じる方が、危険品を監視するより安い仕組みでは、事前対策への投資は進みにくい。
ただし、義務を厳しくするだけでは十分ではない。大手と小規模モールに同じ監視体制を求めるのか、海外販売者の本人確認をどこまで行うのか、誤って正規品を削除した場合の救済をどうするのかも詰める必要がある。
日本の購入者にも無関係ではない
同じ越境通販サイトは、日本の消費者にも商品を販売している。豪州で商品が削除されても、同一品や類似品が日本向け画面に残る可能性はある。
消費者がすぐ実行できる確認は限られるが、少なくとも次の場面では価格より安全情報を優先したい。
- 子どもが使う玩具や衣類に、小型磁石やボタン電池が含まれていないか
- コンセントへ直接つなぐ照明・充電器に、国内向けの安全表示があるか
- 販売者の所在地、返品先、連絡方法が明示されているか
- リコールや販売禁止の対象になっていないか
豪州の改革が注目されるのは、単に一国の通販規制だからではない。国境を越えて同じ商品が流通するなか、プラットフォームにどこまで「店」と同じ責任を負わせるかを具体化する試みだからだ。
今後の注目点
次に見るべきなのは、政府が理念をどのような義務へ落とし込むかだ。
- プラットフォームが確認すべき商品・出品者情報の範囲
- 危険品の再出品を防ぐ仕組みと実施期限
- 事故情報の報告主体と報告基準
- 違反時の罰則、購入者への通知、返金や回収の責任
自主誓約から法的義務へ移れば、通販モールの画面や出品審査、販売後の通知まで変わり得る。改革の成否は、削除件数の多さではなく、危険な商品が購入ボタンを押せる状態になる前に止まるかで測るべきだ。
