引き取り手のない遺骨、自治体はどう弔うのか――朝倉市の協定から見える「死後の行政」
身寄りがない人や、親族が引き取りを断った人が亡くなると、自治体が火葬し、遺骨を一時保管することがあります。その後は一定期間個別に保管し、引き取り手が現れなければ合祀するのが代表的な流れです。
ただし、保管場所や期間、親族をどこまで探すかは全国一律ではありません。福岡県朝倉市が民間事業者と結んだ協定は、増え続ける遺骨を「倉庫で預かる行政事務」にとどめず、供養と納骨までつなぐ地域の試みです。
この記事で分かること
- 2023年度の「引き取り手のない遺体」は全国で約4万2,000人と推計された
- 適用される法律は、本人の身元や生活保護の利用状況などで異なる
- 火葬後の個別保管は1年、3年、5年など自治体によって差がある
- 朝倉市は民間事業者との協定により、供養を経た納骨先を確保した
朝倉市が「供養後の納骨」を協定にした
朝倉市の協定が解決しようとしているのは、火葬後の遺骨を最終的にどこへ納めるかという問題です。
朝倉市は2025年7月8日、フォレストパークあさくら株式会社と「引き取り手のない遺骨に関する協定」を締結しました。同社代表からの「遺骨を無縁仏にしたくない」という申し出を受けて実現したものです。
市が身元不明者や身寄りのない人を法律に基づいて火葬し、遺骨を一時保管した後、同社が供養のうえ納骨します。自治体が抱えていた骨壺を移すだけではなく、弔いの手順を協定に組み込んだ点が重要です。
この取り組みは、大都市だけの問題と思われがちな「無縁の死」が地方にも及んでいることを示します。人口規模が小さい自治体では年間件数が少なくても、遺骨は引き取り手が現れるまで残り続けます。毎年数柱ずつ増えれば、保管場所と納骨先はいずれ限界を迎えます。
全国で約4万2,000人、数字が示すもの
無縁遺骨が増える最大の背景は、亡くなる人が増える一方で、葬儀や納骨を引き受ける家族を前提にできなくなったことです。
厚生労働省の調査研究は、2023年度に引き取り手がなかった遺体を全国で推定4万1,969人と試算しました。同年の死亡者157万6,016人に対して2.7%です。
内訳は次の通りです。
- 墓地埋葬法第9条に基づく火葬:8,694人
- 行旅死亡人法に基づく火葬:1,209人
- 生活保護法第18条第2項第1号の適用:2万6,138人
- 同第2号の適用:5,928人
この約4万2,000人は、自治体が保管している骨壺の累計ではありません。1年間に発生した「引き取り手のない遺体」の推計値です。過去に報じられた「全国で約6万柱を保管」という累積値とは調査対象が違うため、単純に足したり増加率を計算したりはできません。
「親族がいない」と「引き取り手がいない」は同じではない
引き取り手がいないケースには、戸籍上の親族が一人もいない場合だけでなく、親族と長く疎遠だった場合、連絡がつかない場合、経済的・心理的な事情から引き取りを断られた場合も含まれます。
つまり、戸籍をたどって親族が見つかっても、それだけでは解決しません。自治体は連絡先を調べ、遺体や遺骨を引き取る意思があるかを確認し、断られた場合には費用請求や遺留品の扱いも別に整理します。
背景には複数の変化が重なっています。
- 高齢化で年間死亡者数が増えている
- 単身で暮らす高齢者が増えている
- 子どもやきょうだいが遠方に住み、交流が途絶えている
- 親族側も高齢、病気、生活困窮などを抱えている
- 墓の承継や管理を引き受けにくくなっている
「家族がいるか」ではなく、死後の手続きを実際に担う人がいるかが分かれ目になっています。
自治体はどの法律で火葬するのか
適用される制度は一つではなく、身元が判明しているか、生活保護を受けていたかなどで分かれます。
身元が分かり、埋葬する人がいない場合
墓地、埋葬等に関する法律第9条は、埋葬または火葬を行う人がいない、あるいは分からない場合、その死亡地の市町村長が行うと定めています。
自治体は警察や医療機関から連絡を受け、死亡届に関する手続きを進めます。同時に戸籍を調べ、親族へ連絡して引き取りの意思を確認します。ただし、遺体を長期間置くことはできないため、火葬と親族調査が並行する場合もあります。
身元そのものが分からない場合
氏名や住所が判明しない人には、行旅病人及行旅死亡人取扱法が用いられます。自治体は遺体の状況や所持品などを記録し、火葬・埋葬を行うとともに、官報公告など身元確認に必要な手続きを進めます。
生活保護を受けていた場合
生活保護法の葬祭扶助が適用される場合があります。検案、遺体の運搬、火葬または埋葬、納骨など、必要な範囲の費用を制度で賄います。
同じ「身寄りのない人の死」でも、担当が生活保護、高齢福祉、保健衛生などに分かれることがあります。厚生労働省の調査では、事例の増加を受け、担当部署や予算の持ち方を見直した自治体も確認されました。
ここがポイント: 自治体が遺骨を預かるのは、行政が墓の所有者になるためではありません。引き取り手の確認、火葬、個別保管、合祀へと進む過程で、誰も担えない手続きを公的に埋めているのです。
火葬後、骨壺はどこへ行くのか
自治体による火葬の後も、すぐに合祀されるとは限りません。将来の引き取りに備え、一定期間は個別の骨壺として保管されます。
厚生労働省の調査で挙げられた主な保管場所は、公営墓地、納骨堂、火葬場・斎場、寺院などです。自治体の執務室や倉庫に置く場合だけでなく、外部施設への委託も「自治体が預かっている遺骨」に含まれます。
一般的な流れは次の通りです。
- 警察や医療機関から自治体へ連絡が入る
- 身元、戸籍、親族、生活保護の利用状況を確認する
- 適用する法律と担当部署を決める
- 葬祭事業者へ搬送や火葬を依頼する
- 火葬後の遺骨を骨壺ごとに管理する
- 親族へ引き取りを依頼し、費用や遺留品を整理する
- 保管期限後も引き取り手がいなければ合祀する
保管期間に全国共通の答えはない
調査で保管期間を具体的に回答した自治体では、5年が25件と最も多く、3年と1年が各13件でした。このほか、1カ月から33年、永年まで大きな幅があります。
期間が違うのは、後から親族が判明する可能性、納骨施設の収容力、地域の慣行、予算などが異なるためです。個別保管中なら親族に骨壺を渡せますが、複数人の遺骨を一緒に納める合祀後は、原則として特定の一柱だけを取り出せません。
ところが、参照するマニュアルや内規があると答えた自治体のうち、遺骨の扱いが文書に記載されていたのは26.1%でした。担当者の経験や引き継ぎに依存すれば、保管期間や親族調査の範囲が事案ごとに揺れるおそれがあります。
松本市では市営納骨堂が収容限界に近づく
骨壺は毎年積み上がるため、最終的な納骨先を決めなければ保管施設が埋まります。
長野県松本市の「身寄りなき老後の支援」資料によると、市営蟻ケ崎霊園の無縁墓地には310柱が納められ、2025年1月までの直近分だけで22柱が加わりました。市は、少子高齢化や核家族化の影響で引き取り手のいない場面が増えていると説明しています。
2023年度に自治体が預かった遺骨について、厚生労働省の調査に回答した1,131自治体の合計は5,799柱でした。平均は5.1柱ですが、政令市では69.6柱、特別区では41.8柱に上ります。人口の多い都市ほど、保管場所の確保が切迫しやすいことが数字に表れています。
一方、小さな自治体では件数が少ない代わりに、専用納骨堂の整備や担当職員の確保が難しいという問題があります。朝倉市のように地域の民間事業者と協定を結ぶ方法は、その弱点を補う選択肢になります。
ただし、民間連携にも確認すべき点があります。
- 供養と納骨にかかる費用を誰が負担するのか
- 個別保管から合祀へ移す時期を誰が判断するのか
- 後から親族が現れた場合に、どこまで対応できるのか
- 委託先が事業を継続できなくなった場合、遺骨をどう引き継ぐのか
- 宗教的な儀式を本人の意思とどう両立させるのか
協定を結ぶことは終点ではありません。手続き、記録、費用、継続性を公開可能なルールにして初めて、他地域でも再現できる仕組みになります。
「税でどこまで担うのか」という反論
行政負担への疑問は避けられませんが、遺体を放置できない以上、誰かが必ず手続きを担う必要があります。
親族調査、搬送、火葬、骨壺の保管、納骨、遺留品の整理には費用と職員の時間がかかります。本人に遺留金や預貯金があれば費用に充てる余地はあるものの、相続との関係や金融機関の手続きが複雑で、自治体が円滑に払い戻しを受けられないケースも指摘されてきました。
一方で、親族がいるという理由だけで費用や祭祀を一律に背負わせることにも問題があります。長年交流がなかった、虐待や家庭内暴力から離れていた、自身も高齢で墓を管理できないなど、関係を断つに至った事情はさまざまです。
議論すべきなのは「家族の責任か、行政の責任か」という二択ではありません。
- 本人の財産を適法かつ迅速に費用へ充てる仕組み
- 自治体が最低限保障する火葬・保管・納骨の範囲
- 個別の葬儀や宗教儀礼を希望する場合の生前契約
- 親族調査をどこまで行えば行政手続きを進められるか
- 国が統一すべき基準と、地域に委ねる部分の切り分け
この線引きが曖昧なままでは、現場の職員と、突然連絡を受ける遠縁の親族の双方に負担が集中します。
ネット上の受け止めに表れる二つの不安
この問題への反応は、行政コストへの懸念と「自分も無縁になるかもしれない」という不安に大きく分かれます。
ニュースをめぐるオンライン上の投稿では、自治体職員の人手不足や手続きの遅れを心配する声が見られる一方、単身者からは無縁遺骨を他人事と思えないという反応も出ています。これらは世論調査ではなく、社会全体の意見を代表するものではありませんが、制度が生活者に十分知られていないことは伝わります。
また、「合祀なら墓を管理しなくてよい」という見方と、「本人の希望を確認せず一括して扱ってよいのか」という懸念は両立します。供養を手厚くするだけではなく、本人が元気なうちに希望を記録できる仕組みが必要です。
無縁遺骨を減らす鍵は「亡くなった後」より前にある
最も有効なのは、死後に親族を探し回る前に、本人の連絡先と希望を地域で確認できる状態をつくることです。
自治体の終活支援では、緊急連絡先、かかりつけ医、葬儀の生前契約先、墓の所在地、エンディングノートの保管場所などを登録する取り組みが始まっています。
生活者が準備できることも、遺言書だけではありません。
- 緊急連絡先を定期的に更新する
- 葬儀や納骨を頼む相手に事前に意思を確認する
- 墓、納骨堂、散骨など希望する方法を記録する
- 契約した葬祭事業者と支払い方法を分かる場所に残す
- 賃貸住宅の管理会社、医療機関、支援者に情報の保管場所を伝える
- 自治体や社会福祉協議会の終活支援制度を確認する
重要なのは、エンディングノートを書くだけで終わらせないことです。誰にも存在を知らせていない記録は、死後に見つからない可能性があります。情報を預かる人や機関まで決めておく必要があります。
次に見るべきは「保管数」よりルールの中身
遺骨の数だけでなく、自治体がどの時点で何を判断するかを確認することが、今後の焦点です。
注目したいのは次の4点です。
- 国が親族調査や個別保管について標準的な手順を示すか
- 自治体が保管場所、期間、合祀の条件を明文化するか
- 朝倉市型の民間協定が、費用と継続性を含めて他地域へ広がるか
- 生前の終活登録が、所得や家族構成を問わず利用できる制度になるか
無縁遺骨の増加は、亡くなった後だけに起きる問題ではありません。入院時に連絡する人がいない、施設入所の保証人が見つからない、死後の希望を託す先がない――同じ困難が生前から続いています。
朝倉市の協定は、その最後の工程である納骨先を確保しました。次に必要なのは、本人が話せる段階から医療、福祉、自治体、葬祭事業者をつなぎ、骨壺が役所へ届く前に意思を残せる仕組みです。
