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街を暗くせず、星空を守る――長野県の「光害対策」が示す照明の新常識

下向きの防犯灯が道路を照らし、上空に星空が広がる夜の街。

街を暗くせず、星空を守る――長野県の「光害対策」が示す照明の新常識

夜空を守るために、防犯灯を消す必要はありません。自治体が優先すべきなのは、照明の数を一律に減らすことではなく、必要な路面や人の姿は照らし、上空や住宅、農地へ漏れる光を抑えることです。

長野県では2026年8月、夏の星空観察に合わせて光害防止を改めて案内しました。同県は条例で屋外照明への配慮を求め、サーチライトなどの使用も原則禁止しています。観光地だけの問題に見える「光害」が、防犯、通学、住環境、農業にまたがる地域行政の課題になっています。

この記事で分かること

  • 光害対策は「消灯」ではなく、光の向き・強さ・色・点灯時間を整える取り組み
  • 長野県は条例、具体的な指針、住民参加の星空観察を組み合わせている
  • 防犯上の明るさは、路面照度などを測って確保できる
  • 自治体には、器具交換後も夜空と生活道路を継続測定する仕組みが必要
目次

長野県でいま何が行われているのか

長野県の特徴は、星空保護を呼びかけだけで終わらせず、条例と観測の両方に落とし込んでいる点です。

県は2021年に「良好な生活環境の保全に関する条例」へ光害防止の規定を新設しました。屋外照明を使う際の措置、星空環境への配慮、サーチライトなどの使用禁止、普及啓発が柱です。サーチライト等の禁止規定は2022年4月に施行されました。

2026年度の夏には、8月3日から16日まで肉眼やデジタルカメラによる星空観察を案内。カメラで測った夜空の明るさは9月4日まで報告できます。星が見えたかどうかを楽しむだけでなく、人工光の状態を住民が確かめる機会にもなります。長野県の案内では、対策を次のように整理しています。

  • 漏れ光の少ない器具を選ぶ
  • 照射方向を必要な場所に限定する
  • 輝度や光度を抑える
  • 店舗照明などの点灯時間を見直す
  • 公共施設では敷地外や上方へ光が漏れない形状を採用する

ここで重要なのは、県が「防犯や人の活動・作業の安全性を確保しつつ」と明記していることです。暗さそのものを目標にしているわけではありません。

光害対策は、なぜ「防犯灯を減らす話」ではないのか

問題は光があることではなく、必要のない方向、強さ、時間に光が出ていることです。

環境省は光害を、不適切な照明や漏れ光によって良好な光環境が損なわれ、人、動植物、夜空などに悪影響が生じる状態と定義しています。夜空だけでなく、信号の見えにくさ、まぶしさ、住宅への光の侵入、農作物や野生生物への影響も対象です。

上空を照らしても、歩行者の安全にはつながらない

街路灯の光が水平より上へ漏れても、足元の段差や前方の人は見やすくなりません。むしろ、強い光源が直接目に入ると、まぶしさによって暗い部分を見分けにくくなることがあります。

環境省の光害対策ガイドラインは、地域の性格に応じて上方光束比の最大許容値を示しています。

  • 里地などの「E1」:0.0%
  • 郊外などの「E2」:2.5%
  • 都市周辺などの「E3」:5.0%
  • 都市中心部などの「E4」:15%

里地では上向きの光をゼロに近づけ、都市中心部では一定の余地を認める。土地利用の違いを無視して、全国一律の暗さを求める設計ではありません。

「安全」は明るさの印象ではなく測定値で確認する

防犯面で見るべきなのは、照明器具のワット数や遠くから見た明るさではなく、道路面と人の高さに必要な光が届いているかです。

日本防犯設備協会の防犯灯照度基準では、生活道路のクラスBについて、平均水平面照度3ルクス以上、道路中心線上の鉛直面照度の最小値0.5ルクス以上を基準としています。これは4メートル先にいる歩行者の挙動や姿勢が分かる程度です。

つまり、自治体は次の二つを同時に検証できます。

  • 路面や人の高さで、防犯に必要な照度が得られているか
  • 上空、民家の窓、農地などへ余分な光が漏れていないか

ここがポイント: 防犯と光害対策は「明るくするか、暗くするか」の二者択一ではありません。必要な場所の照度を測り、不要な方向への光を削る設計課題です。

自治体が使える四つの調整手段

照明は、向き、量、色、時間の四つを分けて調整すると、安全性を保ちながら光害を抑えやすくなります。

1. 光を下向きに限定する

笠やシェードを備えたフルカットオフ型の器具なら、空や隣家へ漏れる光を減らし、道路や通路へ集中させられます。樹木の成長で光が遮られていないか、設置後の点検も必要です。

2. 必要な照度を超えない

LED化で消費電力が下がっても、従来より高出力の器具を選べば光の総量は増えます。「省エネ機器だから光害も減る」とは限りません。器具交換の前後で路面照度と夜空の明るさを測る必要があります。

3. 光色を選ぶ

国立天文台の解説によると、星空に優しい照明では、上方光束率0%に加え、青色光が少ない3000K以下の暖色系が主な要件とされています。

ただし、色温度だけを下げれば解決するわけではありません。光源が横から直接見える器具や、出力が過大な照明では、まぶしさや漏れ光が残ります。配光と光量を先に確認し、光色を組み合わせる順序が大切です。

4. 時間帯で運用を変える

駅前、通学路、商業施設、観光施設では、人通りが多い時間が異なります。深夜に利用が減る場所では調光し、人感センサーを使い、イベント照明には終了時刻を設定する方法があります。

一方、交差点、避難経路、夜間も利用される医療・福祉施設の周辺では、安易な消灯を避けなければなりません。場所ごとの利用実態が、運用を分ける基準になります。

条例だけでは変わらない――費用と管理をどう組み立てるか

対策を実際の街路へ広げるには、規制よりも器具交換の予算、管理台帳、住民への説明が効きます。

防犯灯は自治体だけでなく、自治会や町内会が設置・維持している場合があります。性能の良い器具を推奨しても、購入費と工事費が重ければ交換は進みません。

鳥取県は、上方への漏れ光を抑えたLED防犯灯の新設や更新について、市町村に対象経費の4分の1を補助しています。対象には灯火だけでなく、笠、シェード、自動点滅器、取付金具、設置作業代なども含まれます。鳥取県の補助制度は、「星空に優しい」と「犯罪のないまちづくり」を同じ事業目的に置いている点が実務的です。

自治体が整えるべき情報は、少なくとも次の通りです。

  • 防犯灯・道路灯の位置、型番、出力、色温度
  • 管理主体と電気料金の負担者
  • 通学路、交差点、避難路など安全上の役割
  • 住宅、農地、河川、森林など周辺環境
  • 交換前後の照度と、住民から寄せられた不具合

台帳があれば、「暗い」という申告に増灯だけで応じず、器具の向き、樹木による遮光、故障、明暗差を切り分けられます。

地域の受け止めから見える争点

住民が気にしているのは星の数だけではなく、暮らしの安全と規制の範囲です。

長野県が条例改正前に行ったパブリックコメントには、26人から82件の意見が寄せられました。募集結果は、光害が住民の不快感、景観、動植物に関わる課題として扱われたことを示しています。ただし、この人数だけで県民全体の賛否を判断することはできません。

また、環境省が光害の説明ページで「対策をすると街が暗くなり、防犯上危険になるのではないか」という問いを取り上げていることからも、安全への懸念が代表的な論点だと分かります。同省の答えは明快で、光害対策は暗い街をつくるものではなく、不要な漏れ光を減らして必要な場所を効率よく照らすものです。環境省のQ&Aも、対立の置き方そのものを見直しています。

住民説明では「星空のために我慢してほしい」では足りません。交換後の道路面照度、器具の配光、電気使用量、苦情への対応方法を示し、生活上の利益を見える形にする必要があります。

先行地域は何をしているのか

先行例に共通するのは、認定や条例より先に、公共照明を具体的に交換していることです。

千葉県南房総市は、和田町上区を対象に星空保護区の取得を目指しています。市は「生活に必要な最低限の明るさや安全性」を確保しながら、公共施設の照明交換と環境啓発を進めています。南房総市の取り組みは、観光プロモーション課が担当しており、星空を環境だけでなく地域資源として扱う事例です。

岡山県井原市美星町では、上方光束率0%、色温度3000K以下の防犯灯約440台と道路灯7台が導入され、2021年に星空保護区のコミュニティ部門に認定されました。導入事例が示すのは、防犯灯を撤去せず、器具の性能を変えることで基準に近づけた実績です。

ただし、認定取得地域の仕様をそのまま都市部へ移すことはできません。繁華街、住宅地、農村部では必要な照明の役割が違うためです。環境省が地域別の許容値を設けているのも、その違いを前提にしているからです。

次に問われるのは「交換後を測る仕組み」

自治体の次の課題は、LEDへの交換台数ではなく、安全と暗さが本当に両立したかを公開することです。

照明更新の成果を判断するには、少なくとも三つの確認が欠かせません。

  • 生活道路で必要な水平面・鉛直面照度を満たしたか
  • 上空への漏れ光や住宅への侵入光が減ったか
  • 住民の「暗い」「まぶしい」という申告に、測定を伴って対応したか

長野県の夏の星空観察は終了しましたが、デジタルカメラによるデータの報告期限は2026年9月4日です。今後見るべきなのは、集まった観測を啓発イベントの記録で終わらせず、公共照明の更新や地域別基準の見直しへどう結び付けるかです。

街を暗くするのではない。必要な光だけを、必要な場所へ届ける。 その設計と測定を自治体の標準業務にできるかが、防犯と夜間環境を両立させる分岐点になります。

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