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古着回収ボックスの先で止まる循環――衣類の7割を占める「混紡」の難題

回収されたスポーツウェアと混紡繊維を選別する衣類リサイクル現場。

古着回収ボックスの先で止まる循環――衣類の7割を占める「混紡」の難題

古着を回収ボックスに入れても、同じ品質の服に戻るとは限りません。大きな壁は、綿、ポリエステル、ウール、ポリウレタンなどを組み合わせた混紡素材を、再利用できる純度で分離する難しさです。

兵庫県などではスポーツウェアを集め、再び繊維として使う取り組みが進んでいます。しかし、回収量を増やすだけでは循環は完成しません。選別、付属品の除去、素材の分離、再生原料の品質確保までをつなげる必要があります。

この記事で分かることは、次の4点です。

  • 回収した服が、そのまま新しい服になるわけではない理由
  • 混紡素材が衣類リサイクルの難所になる仕組み
  • 兵庫県などの地域回収が担っている役割
  • 消費者、メーカー、自治体が次に変えるべきこと
目次

兵庫で進むスポーツウェア回収、焦点は「服から服へ」

地域の回収実証は、衣類を集める場所だけでなく、再生工程へ渡す入口をつくる試みです。

兵庫県は、市町や企業と連携して「スポーツウェア・リボーン・プロジェクト」を展開しています。2025年7月12日には、ノエビアスタジアム神戸で開かれたラグビー男子日本代表対ウェールズ代表戦に合わせ、観客や地域住民からスポーツウェアを回収しました。

県が掲げるのは、回収品を中古衣料として再使用するだけでなく、繊維などへ水平リサイクルすることです。過去にはアシックスによる回収や、大阪マーヴェラスの協力を得たユニフォーム・スポーツウェア回収も行われています。兵庫県の事業紹介からは、スポーツイベントを生活者との接点にして回収経路を広げる狙いが読み取れます。

スポーツウェアは、この課題を考えるうえで分かりやすい品目です。汗を逃がすポリエステル、伸縮性を持たせるポリウレタン、肌触りを調整する天然繊維など、複数の素材が一着に使われることが珍しくないからです。

回収は必要です。ただし、「集まった量」と「新しい衣類の原料になった量」は別の数字として見なければなりません。

なぜ混紡素材は分けにくいのか

混紡の難しさは、素材名を見分けることより、絡み合った繊維を傷めず、低コストで分離することにあります。

経済産業省によると、衣料品の約7割は複数の素材で構成される混紡品です。綿50%・ポリエステル50%の生地は、完成品では一枚の布に見えても、細かな繊維が混ざり合っています。

機械でほぐすと品質が落ちる

衣類を裁断し、機械で綿状に戻す「反毛」は、混ざった素材も処理しやすい方法です。一方、繊維が短くなりやすく、元と同等の糸を作るには品質上の制約があります。

そのため、回収品は次のような用途へ回ることがあります。

  • 工場で使うウエス
  • 自動車の防音材
  • 建築用の資材
  • 中綿やフェルト状の製品

名古屋市は、回収古着について、再着用できる「古着」、綿製品などを使う「雑巾」、純毛や化学繊維を利用する「反毛」へ、おおむね3分の1ずつ振り分けられると説明しています。これは資源の有効利用ですが、必ずしも服から同等品質の服へ戻す水平リサイクルではありません。

化学的に分けるには素材ごとの条件が違う

綿はセルロース、ポリエステルは合成樹脂、ウールはたんぱく質を主成分とします。熱や溶剤への反応が異なるため、一方を溶かして回収しながら、もう一方を劣化させない工程が必要です。

さらに難度を上げるのが、伸縮性を生むポリウレタンです。少量でも別素材に付着・混在し、再生原料の純度や加工条件に影響します。縫い糸、裏地、接着芯、プリント、ファスナー、ボタンも処理工程では異物になります。

ここがポイント: 回収ボックスは循環のゴールではありません。混紡率、付属品、汚れ、再生後の用途まで設計されて初めて、「服から服へ」の流れが成立します。

「回収できる服」と「再び服になる服」は一致しない

古着回収には、リユース、海外輸出、ウエス化、反毛化、化学的な再生など、複数の出口があります。

環境省の2025年版マテリアルフローでは、国内の衣類新規供給量は82万トン。その約6割に当たる50万トンが、焼却などによって処理されたと推計されています。このうち家庭から出たものは46万トンです。

大量の衣類が処分される一方、回収後の用途は状態と素材で分かれます。

  • まだ着られる服:国内外でリユース
  • 綿を多く含む服:ウエスなどへ加工
  • 再着用しにくい服:反毛して産業資材などに利用
  • 条件の合う化学繊維:原料レベルまで戻す再生処理
  • 汚れや複雑な複合構造がある服:焼却などの対象

この違いを無視すると、「回収率は上がったのに、新しい衣類へ使える再生繊維は増えない」という事態が起きます。

受け入れ条件が細かいのには理由がある

自治体の回収案内では、濡れた衣類、油や泥で汚れた衣類、中綿入り製品などが対象外になることがあります。水分や汚れは保管中のカビや品質低下につながり、複雑な構造は選別・解体の負担を増やすためです。

三鷹市の「繊維to繊維」実証では、洗って「タンスにしまえる状態」にすること、濡らさないことなどを条件としています。同市は2025年7月から2028年3月まで実証を行っており、2026年3月末時点の回収実績は5,120キログラムです。

この数字が示すのは、地域に一定の排出需要があることです。一方で、事業を評価するには回収重量だけでなく、次の内訳も重要になります。

  • 再着用に回った割合
  • 繊維原料へ戻せた割合
  • ウエスや産業資材になった割合
  • 処理できず廃棄された割合
  • 回収・選別・再生にかかった費用と環境負荷

技術開発は「綿とポリエステルを分ける」段階へ

研究の中心は、混紡を一括処理することではなく、構成素材を再利用できる形で取り出すことへ移っています。

環境省の研究事業では、大阪大学の宇山浩氏を研究代表者として、2025年度から2027年度まで混紡繊維の分別・リサイクル技術を開発しています。対象は次の3系統です。

  • 綿とポリエステルの混紡
  • ウールとポリエステルの混紡
  • ポリウレタンを含む混紡

研究ではマイクロ波を利用し、ポリエステル側から原料となる成分を回収しながら、綿などを分離する工程の実用化を目指しています。研究資料では、綿・ポリエステル混紡のポロシャツ生地を分け、ポリエステルの前駆体であるBHETを高純度で回収する構想が示されています。

ただし、実験で分離できることと、全国から届く多様な衣類を採算の合う速度で処理できることは同じではありません。実用化には、少なくとも以下の条件が必要です。

  • 素材構成がある程度分かる回収品を安定して確保する
  • 色、加工剤、プリント、付属品の影響を管理する
  • 分離に使うエネルギーや薬品を抑える
  • 再生原料を継続購入するメーカーを確保する
  • 新品原料と比較できる品質と価格を実現する

回収量だけ増やす政策では足りない

2030年の目標達成には、回収、製品設計、再生技術、再生材の販売先を同時に整える必要があります。

経済産業省の「繊維製品における資源循環ロードマップ」は、2030年に手放される衣料品のうち5万トンを繊維から繊維へリサイクルする目標を掲げています。また、家庭から廃棄される衣類を2020年度比で25%減らすことも目標です。

この2つは役割が違います。廃棄量の削減には、長く着る、修理する、譲る、中古で売るといった行動が効きます。繊維to繊維の拡大には、回収後の選別と再生設備への投資が欠かせません。

メーカーに求められるのは「分けられる服」

耐久性や着心地を考えれば、混紡そのものをすべて避けるのは現実的ではありません。スポーツウェアや作業服では、吸汗速乾性や伸縮性が安全性・快適性に直結します。

そこで重要になるのが、リサイクル工程を想定した設計です。

  • 可能な部分は単一素材にする
  • 本体と縫い糸の素材をそろえる
  • ファスナーやボタンを外しやすくする
  • 接着剤や複雑な多層構造を減らす
  • 素材情報を回収・選別事業者へ正確に伝える

品質表示タグは消費者の手掛かりになりますが、タグを目視して大量の衣類を一着ずつ仕分けるだけではコストが膨らみます。素材情報を機械で読み取れる仕組みや、自動選別技術との接続も課題です。

自治体には「出口を示す回収」が必要

自治体が回収箱を増やす場合、住民に分別方法を伝えるだけでなく、回収品がどこへ行ったかを示すことが信頼につながります。

「何キログラム集まったか」に加え、再使用、水平リサイクル、産業資材化、廃棄の割合を公開できれば、住民は回収の実態を判断しやすくなります。処理先が確保できないまま回収量だけを増やすと、選別現場や保管場所に負担が集中します。

私たちは古着をどう手放せばよいのか

最も効果的なのは、まだ着られる服と素材として回す服を混同せず、回収先の条件に合わせることです。

消費者が自宅で繊維を分離することはできません。それでも、回収後の選別を妨げない行動は取れます。

  • まだ着られる服は、譲渡や中古販売など再使用を優先する
  • 回収に出す服は洗い、十分に乾かす
  • 汚れや破損の許容範囲を回収先の案内で確認する
  • 指定されていない布団、中綿製品、電池入り衣類を混ぜない
  • 店舗回収では、他社製品や肌着などが対象か事前に確かめる
  • 購入時には耐久性、修理のしやすさ、素材構成も見る

ネット上では古着回収を「箱に入れれば服に戻る仕組み」と受け止める向きもありますが、実際の出口は複数あります。自治体や企業には、回収実績だけでなく、再使用・再資源化の内訳を分かりやすく伝える姿勢が求められます。

次の注目点は明確です。兵庫県などの地域回収で集まった衣類のうち、何割が本当に新しい繊維へ戻ったのか。そして、2027年度までの混紡分離研究が、多種多様な実物の衣類を処理できる工程へ進めるかです。回収箱の数より、その先の数字が衣類循環の実力を示します。

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