4万7119台に増えても「乗れない」――UDタクシーの弱点は車両より運用にある
ユニバーサルデザイン(UD)タクシーは、車いす利用者だけでなく、高齢者、妊婦、大きな荷物を持つ人にも乗り降りしやすい車両です。ただし、車両が対応していることと、必要なときに実際に乗れることは別問題です。
国土交通省の集計では、UDタクシーは2024年度末に全国で4万7119台まで増えました。一方、DPI日本会議が2025年に行った乗車調査では、車いす利用者69人のうち15人が乗車できず、拒否率は22%。東京以外では30%に達しました。
この記事で押さえたい点は次の4つです。
- UDタクシーは全国で増えているが、地域差が大きい
- 乗車できた場合も、準備には平均数分を要する
- 乗車拒否は改善傾向にあるものの、なお5件に1件を超える
- 解決には車両購入だけでなく、配車、研修、乗降場所まで含めた運用が必要
増えたのは確かだが、「普及」の数字には注意がいる
全国のUDタクシーは短期間で大きく増えました。 ただし、公表される数字の意味を分けて読む必要があります。
国土交通省の2024年度末集計によると、福祉タクシー車両は5万9918台。このうちUDタクシーは4万7119台です。
UDタクシーだけを見ると、2021年度末の2万9657台から、3年間で約1万7500台増えました。車両整備は着実に進んでいます。
一方、国の「約9万台」という2025年度末目標は、UDタクシーだけではなく、車いす専用車、寝台専用車、兼用車などを含む福祉タクシー全体の目標です。4万7119台と9万台をそのまま比べることはできません。
また、国はUDタクシーについて「各都道府県でタクシー車両の約25%」という目標を掲げてきました。これは全国合計だけでなく、どの地域でも利用できる状態を目指す考え方です。
都市部に集中すると、台数が増えても生活は変わらない
重要なのは、利用者が暮らす地域で車両を呼べるかどうかです。
神戸新聞が2025年に報じた例では、2023年度末のUDタクシー比率は東京都で65.2%だったのに対し、兵庫県では13.3%でした。西宮市の車いす利用者が流しの車両を探した際には、UDタクシーが見つかるまで待つ場面も報告されています。
地方では、そもそものタクシー台数や運転手が少ない地域もあります。対応車両が営業所にあっても、別の客を運んでいる、夜間は稼働していない、車いす対応に慣れた乗務員が乗っていない――こうした条件が重なると、利用者から見た供給はゼロになります。
反対に、地域で車両と予約窓口をセットで整えると効果が出ます。鳥取県が紹介する県内200台の導入調査では、乗務員の約7割が利便性の高さを実感し、利用者の約3割が「外出しやすくなる」と回答しました。障害者割引の利用も導入前の約2倍になったとされています。
車両は、あるだけでも意味があります。しかし、地域別の稼働台数や予約可能時間まで見えなければ、生活者にとっての普及度は測れません。
「乗りやすい車」でも、乗降はワンタッチではない
UDタクシーの長所は明確ですが、車いすのまま乗るときは乗務員の作業が欠かせません。
車両には広い開口部、手すり、低いステップ、車いす用スロープなどが備わっています。一般の乗客にとっても、腰や膝への負担を抑えやすく、ベビーカーやスーツケースを扱いやすい設計です。
車いす利用時には、さらに次の作業が発生します。
- 安全にスロープを出せる場所へ停車する
- 後部座席などを動かし、乗車空間をつくる
- スロープを設置する
- 車いすを車内へ誘導する
- 固定ベルトと乗員用シートベルトを装着する
- 降車時に一連の作業を逆に行う
DPI日本会議の2025年全国調査では、乗車にかかった平均時間は、流しで8.4分、タクシー乗り場で8.9分、アプリ配車で6.2分、電話予約で5.6分でした。降車は全体平均4.3分です。
車いす別の平均乗車時間は、手動が6.8分、簡易電動が8.0分、電動が10.4分。大きさや重量、固定位置が異なるため、同じ「車いす対応」でも作業は一様ではありません。
ここがポイント: UDタクシーは、車両だけでバリアフリーを完成させる仕組みではありません。乗務員の習熟、停車スペース、配車担当者の判断がそろって、初めて使える交通になります。
利用者の希望と、道路上の安全条件がぶつかることもある
乗務員がスロープを展開するには、車体の横に一定の空間が必要です。狭い道路、段差のある歩道、人通りの多い駅前、後続車が詰まる乗り場では、安全な作業場所を探さなければなりません。
ここには正当な安全判断と、不適切な拒否を分けにくい場面があります。「この場所では危険なので数メートル先で乗ってほしい」という提案と、「時間がかかるから乗せない」は同じではありません。
利用者への説明なしに断れば、拒否された側には理由が分かりません。乗れない場合こそ、別の停車位置、対応車両の手配、待ち時間の見込みを具体的に示す必要があります。
2025年調査でも22%が乗れなかった
拒否率は前年より下がりましたが、改善したから解決済みとは言えません。
DPI日本会議は2025年10月、全国16都府県で延べ69人による乗車調査を実施しました。手動車いす20人、簡易電動35人、電動14人が、流し、乗り場、アプリ、電話予約の4方法を試しています。
結果は次の通りです。
- 乗車できた:54件、78%
- 乗車できなかった:15件、22%
- 東京都の拒否率:8%(2件/26件)
- 東京都以外の拒否率:30%(13件/43件)
- 電話予約で配車できなかった割合:33%(7件/21件)
- アプリで配車できなかった割合:20%(3件/15件)
全国の拒否率は、2019年の27%、2023年の35%、2024年の31%を経て、2025年には22%へ下がりました。電動車いすの拒否率も、2023年の42%から2025年は13%へ低下しています。
ただし、この調査は無作為抽出した全国全車両の統計ではありません。地域別の参加人数にも偏りがあり、全国の拒否率を精密に推計するものではない点に注意が必要です。
それでも、同じ方法で継続的に試した結果として、問題の所在はよく見えます。特に、東京以外の拒否率30%と、電話予約での配車不可33%は、車両の構造より運用段階に大きな壁が残っていることを示します。
「乗せ方を知らない」だけが原因ではない
乗車できた54件について、乗務員が乗車方法を「よく知っていた」とする回答は46%、「少し知っていた」は41%、「知らなかった」は11%でした。
実車研修を受けた乗務員は、有効回答46件のうち37人で80%。研修がまったくなかった人は4%でした。一方、車いすのまま乗せるのが「今回初めて」だった乗務員は、乗車できた54件中17人、31%に上ります。
つまり、研修を一度受けても、実際の乗車機会が少なければ手順は定着しません。調査で挙げられた乗務員の不安には、次のようなものがありました。
- 前回乗せたのが数年前で自信がない
- スロープや固定方法を忘れている
- 車いすの大きさによって乗せられない経験があった
- 準備に時間がかかり、後続車や次の予約が気になる
これは、不適切な拒否を容認する理由にはなりません。ただ、個人の善意だけで解決しようとしても再発します。事業者が短時間の反復訓練を行い、営業所や配車担当が現場を支える仕組みが必要です。
乗車拒否は「サービスのばらつき」では済まない
対応可能な車両で障害を理由に不当に乗車を拒むことは、単なる接客上の問題ではありません。
国土交通省は、UDタクシーの不当な乗車拒否について、事実確認のうえで改善指導や監督処分を行う方針を示しています。2019年3月には東京都で初の行政処分、2020年には北海道の事案で行政指導が行われました。
同省は、車両購入費を補助する際に、実車を用いた乗務員研修を条件としています。また、乗務員だけでなく、予約や配車を扱う担当者にも適切な対応が必要です。
ここで見落とせないのが、電話やアプリの入口です。車両が対応していても、受付側が「介護タクシーでなければ無理」と判断したり、アプリ上で車種を確実に指定できなかったりすれば、乗客には届きません。
一般のUDタクシーと、介助を主目的とする福祉・介護タクシーは役割が異なります。乗降介助や特殊設備が必要なケースは別として、車両仕様の範囲内で乗れる車いす利用者を一律に介護タクシーへ誘導すれば、予約の自由度や運賃、利用できる時間帯に差が生じます。
ネットや報道で目立つのは「マークがあるのになぜ乗れないのか」という疑問
受け止めの中心は、UDの表示と実際の利用体験が一致していないことへの戸惑いです。
当事者団体の公表資料や地域報道には、乗車方法を知らないと言われた、電話で対応車がないと案内された、流しの車両が止まらなかった、といった経験が寄せられています。車体にUDマークがあるため、「当然乗れる」と考える利用者との落差が大きくなります。
一方で、否定的な経験ばかりではありません。2025年のDPI調査では、実際に乗れた54件のうち47件、87%が「歓迎された(普通の対応)」でした。鳥取県の調査でも、乗りやすさや車内の広さを評価する声が紹介されています。
この二つは矛盾しません。乗れれば便利で、丁寧に対応する乗務員も多い。しかし、乗れるかどうかを事前に確信できない。 その予測不能さが、通院、通勤、旅行など時間を外せない移動で大きな負担になります。
必要なのは「何台買ったか」から「何回乗れたか」への転換
次の焦点は、保有台数ではなく利用可能性を測ることです。
車両補助は必要です。地方の導入格差を縮めるには、新たな車種や購入支援も欠かせません。国土交通省は2024年、主に地方部での需要に対応するため、標準仕様UDタクシーに「認定レベル準1」を追加しました。レベルによってスロープの耐荷重などが異なるため、利用者と配車担当が車両仕様を確認できる情報提供も重要になります。
ただ、台数だけを成果指標にすると、営業所で動いていない車両や、車いす対応に使われない車両も「普及」に含まれます。次に把握すべきなのは、例えば以下の数字です。
- 地域・時間帯別に稼働するUDタクシーの台数
- 車いす指定の予約を受け付けた件数と成立率
- 配車から到着までの時間
- 乗降に要した時間と、安全上の問題
- 乗車できなかった理由と代替手配の有無
- 乗務員の実車訓練回数と最終受講日
事業者には、短い反復訓練と配車支援が効く
年1回の講義だけでは、数カ月後にスロープや固定ベルトを迷わず扱えるとは限りません。営業所で車両を使い、数分の反復練習を定期的に行うほうが実務に直結します。
配車担当者向けには、車両ごとの対応可能な車いす寸法や耐荷重、乗降場所の条件、乗務員の習熟状況を一覧化する必要があります。現場の乗務員一人に判断と説明を集中させない仕組みです。
利用者にも、予約時に確認できる情報が必要
利用者側に確認責任を押しつけてはいけませんが、現状では予約時に次の情報を伝えると行き違いを減らせます。
- 車いすの種類とおおよその大きさ
- 車いすから座席へ移乗するか、そのまま乗るか
- 同乗者の人数
- 乗降場所にスロープを展開できる空間があるか
- 必要な到着時刻と、乗降時間を含む余裕
同時に、予約窓口は「対応できない」で終わらず、理由と代替案を示すべきです。別車両なら何時に来られるのか、近くの安全な乗車場所はどこかまで案内できれば、移動そのものを諦めずに済みます。
次に見るべきは、地方の予約成立率
UDタクシーは、車両としては確実に広がりました。乗車拒否率も2025年調査では前年より下がっています。それでも、東京以外で30%、電話予約で33%が乗車・配車に至らなかったという結果は重いままです。
今後の注目点は明確です。
- 地方でUDタクシー比率がどこまで上がるか
- 電話・アプリで車いす対応車を確実に指定できるか
- 実車研修が継続され、初回対応の不安を減らせるか
- 乗れなかった事例を地域運輸局や事業者が検証するか
- 保有台数だけでなく、予約成立率や待ち時間が公表されるか
4万7119台という数字が本当の意味で成果になるのは、利用者が車体のマークを見て「この車なら乗れる」と信頼できるようになったときです。次に問うべき数字は、導入台数ではありません。必要な人が、必要な時間に、何回乗れたかです。
