再配達7.6%でも「ロッカーを増やせば解決」ではない――実証で見えた住宅と街なかの条件
宅配便の再配達率は、2026年4月に7.6%まで下がった。宅配ボックスや置き配などの非対面受取も31.0%に伸びている。
ただし、ロッカーを置くだけで再配達が一律に減るわけではない。マンションでは設置場所、空き容量、オートロック、管理方法が壁になり、公共空間では「帰宅動線上にあるか」「取りに行く手間に見合うか」が利用を左右する。直近の実証が示したのは、箱の数よりも荷物を確実に一度で渡す運用設計の重要性だ。
この記事の要点は次の通り。
- 2026年4月の再配達率は7.6%。都市部は8.5%で、地方の6.0%より高い
- 既存マンション、とくに宅配ボックスがなくオートロックがある物件では受取方法が限られる
- マンション内で荷物をまとめて引き受ける実証では、4棟約1,500戸で再配達率0%を記録した
- 北九州と大阪・梅田の無人受取拠点でも再配達は発生しなかったが、利用者が取りに行く前提がある
- 普及の次の焦点は設置台数ではなく、満杯対策、対応できない荷物、費用負担、複数事業者との接続に移る
再配達率は7.6%まで低下、それでも都市部に差が残る
全国の数字は改善したが、荷物が集中する都市部ではなお削減余地が大きい。
国土交通省が2026年7月10日に発表した調査によると、同年4月の再配達率は、大手宅配事業者6社ベースで7.6%だった。2025年10月の8.3%から0.7ポイント低下している。
地域別に見ると差がある。
- 都市部:8.5%
- 都市部近郊:7.2%
- 地方:6.0%
- 全体:7.6%
同じ調査で、置き配や宅配ボックスなどを含む「多様な受取方法」の利用率は、大手3社ベースで31.0%だった。2025年10月の29.9%から1.1ポイント上昇している。国は2030年度までに、この利用率を50%程度まで引き上げる目標を掲げた。
ここで注意したいのは、31.0%が宅配ロッカーだけの利用率ではないことだ。玄関前への置き配なども含まれるため、再配達率の改善をそのままロッカーの効果とみなすことはできない。
一方、非対面受取が増えるのと同時に再配達率が下がっていることは、受取方法を対面だけに限定しない環境が重要であることを示している。問題は、どの方法を、どこに、どのような運用で用意するかだ。
マンションでは「置く場所」より運用が難しい
既存マンションの課題は、宅配ボックスの有無だけでは説明できない。
LIFULL HOME’Sが2025年6月に掲載されていた全国の賃貸マンションを調べたところ、宅配ボックスがない物件は66.3%だった。さらに全体の19.5%は「宅配ボックスなし・オートロックあり」で、住人が不在なら配達員が各戸の玄関前まで進みにくい。
築年数による差も大きい。築30年を超える物件では、宅配ボックスがない割合が90.0%に達した。新築住宅に設備を組み込むだけでは、既存ストックの問題は残る。
後付けには合意、スペース、費用が必要
分譲マンションで宅配ボックスを後付けする場合、管理組合が設置場所や費用負担を決めなければならない。共用部分の変更内容によっては、総会での決議も必要になる。
設置後にも管理は続く。
- 世帯数や荷物量に対して何区画を用意するか
- 大型荷物や冷蔵・冷凍品をどう扱うか
- 長期間取り出されない荷物にどう対応するか
- 故障時の連絡先と修理費を誰が負担するか
- 廊下やエレベーターホールで避難動線を妨げないか
ロッカーが満杯なら、次の荷物は入らない。設備があっても、その瞬間に使えなければ再配達は発生する。
管理会社が「最後の館内配送」を担った実証
この弱点に別の方法で取り組んだのが、大和ライフネクストの実証だ。管理会社が手配した配送員とマンション管理員が、複数の宅配事業者から全住戸分の荷物をまとめて受け取り、館内の宅配ボックスや置き配を使って届けた。
2025年7月末から12月末まで、4棟約1,500戸で実施した結果は明確だった。
- 再配達率:実証前9~11%から0%へ
- 再配達数:4,048個から0個へ
- 宅配事業者の1日1社1棟当たり滞在時間:137.5分から23.3分へ
- 1日1社1棟当たり来館回数:4.9回から2.5回へ
中央区の実証マンションでは、ドライバーの労働時間を120時間減らせたとの試算も示された。空いたボックスへ早めに荷物を移し、食品などボックスに入れられない荷物は管理事務室で渡すことで、「満杯だから持ち帰る」という事態を避けた。
ここがポイント: 再配達0%を生んだ中心は、ロッカー単体ではない。複数社の荷物を一括して受け取り、館内事情を知る人が空き区画や置き配を使い分けたことにある。
ただし、この方式には新たな仕事と費用が生じる。誰が館内配送員の人件費を負担するのか、誤配や紛失時の責任をどう分けるのか、冷蔵・冷凍品や配達完了通知をどう扱うのか。実証でも、通知方法と温度管理が今後の課題として残った。
ロボットは有効でも、建物との相性が出た
ヤマト運輸は、マンション3カ所163世帯とオフィス1カ所で、配送ロボット4台とスマート宅配ボックス2台を使った。ロボットが運んだ荷物は1,203個で、対面受取854個、置き配349個だった。
再配達率は3カ所のうち2カ所で16.2%、38.5%削減した一方、1カ所では83.2%上昇した。1個当たりの配達時間も、1カ所では15%短縮したが、別の2カ所では9%、21%長くなった。
実証資料は、事前にメールで受取可否を確認する仕組みには効果があった一方、ロボットが一度に運べる荷物が2個までだったことや、通知を受け取る人と実際の受取人が同居家族間で異なる場合を課題に挙げている。Wi-Fi、エレベーター連携、消防法令、機器が占める空間への配慮も必要だった。
つまり、先端機器を導入すれば同じ結果を再現できるわけではない。建物の形状と居住者の生活に合わせた設計が要る。
街なかの受取拠点は「家まで届けない」という選択肢
公共空間や駅周辺の拠点には、既存住宅を改修せず受取方法を増やせる強みがある。
国土交通省は2025年度、駅や公共施設などのコインロッカーを宅配に使う仕組みや、複数事業者のシステムをつなぐ実証を支援した。通勤、通学、買い物の途中で受け取れれば、配達員は各家庭を一軒ずつ回らずに済む。
北九州の住宅街と梅田駅前で再配達0回
Every WiLLは、未利用スペースを使った無人受取拠点「トリイク」を、北九州市小倉・北方エリアの住宅街と大阪市の梅田駅改札前に設けた。実証期間は2025年10月から12月までの約2カ月で、北九州拠点は毎日24時間、梅田拠点は平日10時から18時30分まで営業した。
1カ月当たりの荷物受渡し数は、北九州で189個、梅田で390個。両拠点とも再配達は累計0回だった。ドライバー1人当たりの月間再配達削減率は北九州7.56%、梅田15.98%、労働時間削減率はそれぞれ6.49%と5.12%だった。
梅田では利用者の28%が近隣店舗で「ついで買い」をした。商業施設側にとって、受取拠点が来店のきっかけになる可能性も見えた。
ただし、これは利用者が自分で荷物を取りに行く仕組みだ。実証では数円から数十円相当のポイント還元で行動を促せたとされるが、全国で日常的に使われるかは別途検証が必要になる。
認知度が高くても、日常利用はまだ少ない
東京都のインターネット都政モニター調査では、駅やコンビニ、商業施設などにあるオープン型宅配ボックスを「知っている」と答えた人は85.3%だった。一方、月1回以上使う人は1.6%、月1回未満で使う人は10.2%にとどまった。
「知っているが、利用したことはなく、今後も利用しないと思う」とした人は52.3%だった。認知を広げるだけでは利用につながらないことが分かる。
利用者にとって重要なのは、次のような具体的な条件だ。
- 通勤・通学や買い物の経路から外れない
- 営業時間内に無理なく受け取れる
- 注文時に受取場所を簡単に指定できる
- 追加料金や会員登録の負担が小さい
- 大きさ、重さ、保管期限が分かりやすい
- 複数のEC事業者や宅配会社で同じ拠点を使える
家への配達より手間が増えるなら、利用者には相応の利便性か経済的な動機が必要になる。
ロッカーだけでは扱えない荷物と利用者がいる
宅配ロッカーは有力な手段だが、すべての荷物と生活をカバーする設備ではない。
一般的なロッカーでは対応しにくいものとして、冷蔵・冷凍品、大型品、本人確認や対面手続きが必要な荷物がある。子ども連れの人、高齢者、障害のある人にとっては、自宅外の拠点から重い荷物を運ぶ負担も無視できない。
マンションの共用ロッカーについても、世帯数が多ければ夕方やセール期間に荷物が集中する。公共のロッカーは便利な場所ほど、宅配以外の手荷物保管との競合が起こり得る。
したがって、現実的な受取環境は一つの方式に統一するのではなく、次のような組み合わせになる。
- 自宅の宅配ボックス
- 管理規約に沿った玄関前への置き配
- マンション内の一括受取・館内配送
- 駅、店舗、公共施設などのオープン型ロッカー
- コンビニや営業所での受取
- 日時指定と配達前通知
荷物や居住環境に応じて選べることが、再配達を減らすうえでの安全網になる。
次に問われるのは「誰が維持費を負担するか」
今後の分岐点は、実証で得た効果を継続可能なサービスに変えられるかどうかだ。
マンションでは管理費との関係が焦点
一括受取や館内配送は大きな効果を示したが、配送員の人件費、システム、保険、冷蔵設備などの費用がかかる。宅配事業者、管理会社、居住者の誰がどこまで負担するのかを決めなければ、短期の実証で終わる。
住民側には、費用だけでなく、防犯や個人情報への懸念もある。管理員や委託配送員が荷物情報を扱う範囲、事故時の責任、置き配場所を管理規約で明確にする必要がある。
公共空間では場所と事業者連携が焦点
駅や公共施設のロッカーは、配送先を集約できて初めてドライバーの移動を減らせる。少数の荷物を遠回りして投入するなら、物流全体では効率化しない可能性もある。
自治体や施設運営者が確認すべきなのは、設置台数だけではない。
- 1拠点に何個の荷物を集約できたか
- 配送車の走行時間と停車回数が減ったか
- ロッカーの占有時間と満杯率はどう変化したか
- 利用者は自動車ではなく徒歩や公共交通のついでに受け取ったか
- 補助金終了後も運営収入で維持できるか
この数字がそろえば、生活者の利便性とドライバーの負担軽減を同時に評価できる。
ロッカーの「設置数」から一度で渡せる「成功率」へ
宅配ロッカーは再配達を減らせる。しかし効果を決めるのは、箱があるかどうかだけではない。
マンションでは、荷物が集中しても満杯にしない運用、オートロックの内側へ安全に届ける方法、冷蔵品などの例外処理が必要だ。街なかでは、生活動線上の立地、簡単な受取指定、複数事業者の接続が欠かせない。
次に見るべき指標は、ロッカーの設置台数ではなく、次の4点だ。
- 初回の配達で受け渡しを完了できた割合
- 1個当たりの配送時間
- 満杯や期限超過で使えなかった割合
- 補助なしでも維持できる1個当たりの運営費
2026年4月の再配達率7.6%は改善の途中にある。残る数%を減らせるかは、新しい箱を増やす競争ではなく、住宅と街のそれぞれで「一度で渡し切る仕組み」を作れるかにかかっている。
