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入札なしで自治体が発注できるのはなぜ?「随意契約」を見極める9つの基準

自治体職員の机に契約資料と計算機が並ぶ様子。

入札なしで自治体が発注できるのはなぜ?「随意契約」を見極める9つの基準

自治体の契約は競争入札が原則ですが、災害対応、特定メーカーしか扱えない設備の修理、少額の購入などでは、入札を行わない「随意契約」が認められています。

ただし、担当者が自由に業者を選べる制度ではありません。法令上の要件に該当し、価格と相手方の選び方を説明できることが大前提です。

最近は自治体による契約結果の公開も進んでいます。つくば市は2026年7月、随意契約の公表ページを更新し、工事・製造請負の公表基準が従来の130万円超から200万円超になったことを案内しました。これは2025年4月に施行された国の基準額引き上げを反映した動きです。

この記事で分かることは次の4点です。

  • 随意契約が例外として必要な理由
  • 法令が認める9種類のケース
  • 「1者との契約」と「複数者の見積もり」の違い
  • 住民が契約の妥当性を確かめるポイント
目次

随意契約は「入札を省くための近道」ではない

制度の目的は、競争入札では達成しにくい行政上の必要に対応することです。

地方自治法234条は、自治体の契約方法として一般競争入札、指名競争入札、随意契約、せり売りを挙げています。一方、随意契約を使えるのは、政令で定められた場合に限られます。

競争入札では、条件を公開して事業者を募り、価格などを比較します。幅広い事業者に受注機会が生まれ、自治体も有利な条件を得やすくなるため、これが原則です。

しかし、常に入札を行うと、かえって住民サービスに支障が出る場合があります。

  • 災害で壊れた道路を直ちに応急復旧したい
  • 既存システムと接続できる事業者が事実上1者しかいない
  • 入札手続きの事務コストが購入額に見合わない
  • 入札を行ったものの参加者や落札者がいなかった

こうした場面を補うのが随意契約です。手続きは競争入札より簡素ですが、適用理由の確認や予定価格の設定まで不要になるわけではありません。

法令が認める9つのケース

随意契約にできるかどうかは、地方自治法施行令167条の2第1項に列挙された9類型で判断します。

1.予定価格が少額である

契約額が一定の範囲内なら、入札事務にかかる時間や費用との釣り合いを考え、随意契約にできます。一般に「少額随意契約」と呼ばれる類型です。

2025年4月の政令改正では、上限となる基準額が引き上げられました。主な上限は次の通りです。

  • 工事・製造請負:都道府県・指定都市400万円、その他の市区町村200万円
  • 財産の買入れ:同300万円、150万円
  • 物件の借入れ:同150万円、80万円
  • 上記以外の契約:同200万円、100万円

ここで注意したいのは、政令の金額が全国一律の実施額ではなく、自治体が規則で定められる上限だという点です。自治体側がより低い金額に設定することもできます。

また、上限以下なら自動的に1者だけを選べるわけではありません。複数者から見積もりを取ることを原則とする自治体もあります。大きな契約を意図的に分割して少額契約に見せる運用も認められません。

2.契約の性質や目的が競争入札に適さない

代替できない技術や権利、既存設備との一体性などから、相手方が特定されるケースです。

例えば、メーカー独自の部品が必要な設備修理、著作権者からの利用許諾、既存システムと密接に結び付いた保守などが候補になります。ただし、「以前から頼んでいる」「業務に詳しい」というだけでは十分ではありません。

自治体には、次のような説明が求められます。

  • なぜ他社では履行できないのか
  • 仕様を変えれば競争できないか
  • 新規参入できる事業者が現れていないか
  • 価格が市場水準から離れていないか

広島市のガイドラインは、企画や技術を競わせるプロポーザルで選んだ相手との契約も、この類型に該当し得ると整理しています。つまり、契約方式が随意契約でも、選定段階では複数の提案を比較している場合があります。

3.福祉施設やシルバー人材センターなどから調達する

障害者支援施設などが作った物品を購入したり、シルバー人材センターや母子福祉団体などから役務の提供を受けたりする契約です。

最低価格だけで発注先を決めず、就労機会の確保という政策目的を契約に反映できる仕組みです。草刈り、清掃、封入作業、物品製作など、地域の仕事と結び付く例があります。

この類型では、発注見通しや契約内容を公表するなど、自治体の規則に沿った手続きが必要です。

4.自治体が認定した新商品を購入する

新しい事業分野を開拓する事業者を自治体が認定し、その事業者が生産する新商品を購入するケースです。

実績が少ない新商品は、通常の入札で求められる納入実績などの条件を満たせず、公共調達に入りにくいことがあります。この類型は、その壁を下げる役割を持ちます。

ただし、単に「新製品だから」選べるわけではありません。認定と公表を含む所定の手続きを踏む必要があります。

5.緊急のため入札を行う時間がない

災害や事故などで、競争入札の手続きを待つと住民の安全や生活に重大な支障が出る場合です。

想定されるのは、道路の陥没、断水につながる管路破損、避難所設備の故障といった局面です。国土交通省も災害復旧について、透明性と公正性に配慮しながら、緊急度が極めて高い工事では随意契約を活用する考え方を示しています。

一方、年度末が迫った、担当課の準備が遅れたといった行政内部の事情は、通常ここでいう緊急性には当たりません。

6.競争入札にすると自治体が不利になる

既存工事と密接に関連する追加工事などで、別の事業者に発注すると工期、責任分担、費用の面で自治体に不利益が生じるケースです。

例えば、施工中に予測できない追加作業が必要になり、別業者を入れると安全管理が難しくなる場合が考えられます。ただし、単に同じ業者へ頼む方が楽という理由では使えません。

重要なのは、入札を行う場合と随意契約にする場合を比べ、どの費用や支障が発生するのかを具体的に示すことです。

7.時価より著しく有利な価格で契約できる

通常の市場価格より明らかに有利な条件で物品や不動産などを取得できる見込みがあり、入札を行うとかえって機会を逃す場合です。

「安そうだ」という感覚では足りません。市場価格、過去の取引、第三者の評価などと比較し、「著しく有利」と判断した根拠が必要になります。

8.入札者または落札者がいない

競争入札を実施しても参加者がいない、あるいは再度の入札でも落札者が決まらない場合です。不調随契、不落随契と呼ばれることがあります。

この場合、最初の入札で示した予定価格や主要条件を自由に変えて契約することはできません。地方自治法施行令は、契約保証金と履行期限を除き、当初の条件を変更できないと定めています。

条件を大きく見直す必要があるなら、随意契約へ移るのではなく、仕様や予定価格を再検討して改めて入札するのが筋です。

9.落札者が契約を締結しない

落札者が辞退するなどして契約が成立しなかった場合、別の相手と随意契約できる類型です。

ただし、契約額の上限は落札金額です。入札結果より高い価格で安易に契約することを防ぐ制約が設けられています。

ここがポイント: 9類型のどれかに当てはまることは入口にすぎません。自治体には、その類型を使う必要性、相手方を選んだ理由、価格の妥当性を案件ごとに説明する責任があります。

「随意契約=1者だけで決める」ではない

随意契約でも、可能な限り競争を残す運用があります。

随意契約は大きく分けると、1者だけから見積もりを取る特命随意契約と、複数者から見積もりを取って比較する方式があります。

複数見積もりを取るケース

少額の物品購入や修繕では、入札公告までは行わなくても、複数の事業者へ見積もりを依頼できます。これにより事務負担を抑えながら、価格競争を確保できます。

金額だけでなく、納期や保守条件を含めて比較する場合もあります。地域の中小事業者に順番に見積もりを依頼するなど、受注機会の偏りを避ける運用も重要です。

1者契約が必要なケース

特定メーカーしか修理できない設備や、権利者本人との契約などでは、複数見積もりに実質的な意味がありません。

それでも価格確認は必要です。自治体は、積算資料、過去の契約、他自治体の事例、市場価格などを使い、提示された見積額が妥当かを確認します。

木津川市のガイドラインは、1者しかいないと判断した過程を具体的に明らかにするよう求めています。近隣自治体の契約状況、再委託の実態、新規参入の有無、仕様変更で競争できる余地なども確認項目です。

2025年の基準額引き上げで何が変わったか

少額随意契約を使える範囲は広がりましたが、説明責任まで軽くなったわけではありません。

基準額は長く据え置かれていましたが、資材価格や人件費の上昇などを背景に、2025年4月から引き上げられました。指定都市以外の市区町村では、工事・製造請負の上限が130万円から200万円へ、物品購入は80万円から150万円へ上がっています。

つくば市は2026年7月更新のページで、工事・製造請負について、2024年度まで130万円超としていた公表対象を200万円超へ変更したと明記しました。国の政令改正が自治体の公表実務にも表れた具体例です。

この変更には二つの面があります。

  • 小規模な修繕や調達を迅速に発注しやすくなる
  • 入札を経ない契約の金額帯が広がるため、内部点検と情報公開がより重要になる

物価上昇で従来の基準が実態に合わなくなっていた以上、引き上げには合理性があります。一方、住民や地元事業者から見れば、契約先が固定されていないか、見積額を十分に比較したかが見えにくくなる懸念も残ります。

公表資料から住民が確認できること

妥当性を判断するには、契約額だけでなく「なぜその相手でなければならないか」を読みます。

自治体によって公開範囲や更新頻度は異なります。例えば京都市上下水道局は、一定額を超える契約について、件名、担当部署、相手方、契約金額、契約内容、随意契約の理由、根拠法令、相手方の選定理由を公表するとしています。

公開資料を見るときは、次の点が手掛かりになります。

  • 根拠として施行令167条の2第1項の何号を使っているか
  • 「特殊性」「緊急性」の中身が具体的に書かれているか
  • 1者契約なら、他社では履行できない理由が示されているか
  • 同じ事業者との契約が毎年続いていないか
  • 契約額が毎年大きく上昇していないか
  • プロポーザルなど、契約前に提案を比較する手続きがあったか
  • 契約結果だけでなく、発注見通しや選定経過も公開されているか

「実績がある」「業務に精通している」といった短い理由だけでは、他社を選べない根拠は分かりません。反対に、既存設備との接続条件、権利関係、障害発生時の責任分界まで記されていれば、1者を選ぶ必要性を検証しやすくなります。

問題になるのは制度よりも運用

随意契約そのものを一律に疑うのではなく、例外が恒常化していないかを見る必要があります。

緊急工事や唯一の権利者との契約まで入札にすると、行政サービスが遅れ、最終的に住民が不利益を受けます。福祉施設からの調達のように、価格以外の公共的な目的を持つ契約もあります。

一方で、随意契約には競争相手が見えにくく、同じ事業者への発注が続きやすい弱点があります。初年度は独自技術が必要でも、数年後には他社が参入しているかもしれません。システム保守では、導入時の仕様が特定業者への依存を生み、その後の契約を固定する場合もあります。

自治体側が毎年度確認すべきなのは、次の三つです。

  1. 当初の随意契約理由が現在も残っているか
  2. 仕様の分割や見直しによって競争を導入できないか
  3. 契約価格を比較できる資料がそろっているか

契約相手を変えること自体が目的ではありません。必要なのは、継続契約が最も合理的だと毎回説明できる状態です。

次に注目すべきは「理由の具体性」と「検索しやすさ」

随意契約は、行政が素早く動くために欠かせない例外制度です。だからこそ、住民が後から検証できる仕組みが対にならなければなりません。

今後の注目点は明確です。

  • 基準額引き上げ後、随意契約の件数と総額がどう変化するか
  • 自治体が相手方の選定理由をどこまで具体的に公開するか
  • PDFの一覧だけでなく、年度や事業者名で検索できる形になるか
  • 長期の1者契約を定期的に見直す仕組みが機能するか

自治体の公表ページで最初に見るべきなのは、「随意契約」という表示そのものではありません。根拠条項、1者を選んだ理由、価格の確かめ方の三点です。ここが具体的なら、緊急性や専門性を生かしつつ、公金の使い方を検証できます。

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