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申立て28件のうち調査せず22件 藤沢市オンブズマンの数字から見える行政監視の実力

自治体の相談窓口で住民の申立書を確認する様子。

申立て28件のうち調査せず22件 藤沢市オンブズマンの数字から見える行政監視の実力

市役所の説明や対応に納得できないとき、裁判より身近な第三者として調べてもらえるのが自治体のオンブズマンです。ただし、申し立てれば必ず本格調査や是正につながる制度ではありません。

藤沢市が2026年8月に公表した2025年度の運営状況では、苦情申し立て28件に対し、処理した33件のうち22件が「調査をしない」と判断されました。市への勧告・意見表明はゼロでした。この数字は制度が無意味だという証拠ではなく、行政監視の入口として役立つ一方、対象範囲と権限に明確な限界があることを示しています。

この記事で分かること

  • 藤沢市でオンブズマンに寄せられた苦情の中身
  • 「調査しない」が多くなる制度上の理由
  • オンブズマンが行政を動かせる範囲と、動かせない範囲
  • 市民が申し立てる前に整理しておきたいポイント
目次

藤沢市では168件を受け付け、苦情申し立ては28件

窓口への接触は多いものの、正式な苦情申し立てとして処理される案件は一部です。

藤沢市の公表によると、2025年度にオンブズマン事務局が受け付けたのは計168件でした。内訳は次の通りです。

  • 相談:77件
  • 苦情申し立て:28件
  • 資料請求など:63件

苦情は、市民生活に近い行政サービスへ広く及んでいます。最も多かったのは福祉部の7件で、障がい者支援課の対応が5件、老人福祉センター「湘南なぎさ荘」に関するものが2件でした。

そのほかにも、マイナンバーカードの再発行手数料、ごみ回収、保育施設への入園不可、公園管理、道路維持、市民病院の対応、緊急避難指示などが対象になりました。単なる「市政全般への批判」ではなく、住民が窓口や制度を実際に利用した場面で生じた不利益や行き違いが中心です。

地区別では、片瀬、鵠沼、辻堂、村岡、明治、善行、六会、湘南台、遠藤の各地区から複数の申し立てがあり、長後からは1件でした。市外からの申し立てはありませんでした。

処理33件のうち、申し立ての趣旨に沿ったのは1件

行政側の対応に問題があると認められる案件は少数で、調査対象になる前の段階で終わる案件が多いのが実態です。

2024年度からの繰り越し5件を含め、藤沢市が2025年度に処理した苦情は33件でした。

  • 申し立ての趣旨に沿ったもの:1件
  • 申し立ての趣旨に沿えなかったもの:9件
  • 取り下げ:1件
  • 調査をしないこととしたもの:22件

処理期間は最短1日、最長104日、平均13.9日です。短期間で終わった案件には、内容を確認した段階で制度の対象外と分かったものも含まれるとみられます。

一方、藤沢市はこの年度、市の機関に対する勧告や意見表明を行いませんでした。オンブズマンが行政監視機関であることは確かですが、その働きを「勧告件数」だけで測ると実態を見誤ります。

相談段階で担当部署や別の救済制度につなぐこと、行政側の説明を確認して申立人へ伝えること、個別案件の記録を残すことも役割に含まれるからです。ただし、正式な調査や改善要求に進む割合が低ければ、制度が行政の内側へどこまで踏み込めているのかという疑問は残ります。

ここがポイント: オンブズマンは、市役所への不満を何でも裁定する機関ではありません。本人の具体的な不利益、市の業務との関係、発生時期、ほかの手続きとの重複などが調査の入口で確認されます。

そもそも自治体オンブズマンは何をする制度か

市民の苦情を独立した立場で調べ、必要なら行政へ改善を求める仕組みですが、裁判所のような強制力はありません。

自治体ごとに条例や運用は異なります。一般的には、弁護士や大学研究者など行政組織の外部にいる有識者がオンブズマンに就き、市の事業や職員の対応について申立人と担当部署の双方から事情を確認します。

主な機能は次の三つです。

  • 市政に関する苦情を受け付け、調査する
  • 違法・不当な処理や制度上の問題があれば、是正を勧告したり意見を表明したりする
  • 調査結果と市の対応を申立人へ通知し、一定の範囲で公表する

つくば市の制度では、本人からの申し立てを待たず、オンブズマンが自ら案件を選んで調査する「発意調査」も任務に含まれます。個別の苦情から、同じ問題がほかの住民にも起こり得ると判断した場合に、制度全体を点検できる仕組みです。

ここで注意したいのが、行政を監視する市民団体も「市民オンブズマン」と呼ばれることです。自治体が条例で設ける公的なオンブズマンとは別の存在であり、情報公開請求、住民監査請求、訴訟などを通じて公金支出を追及する活動をしています。

なぜ「調査しない」という結論が多くなるのか

オンブズマンの弱点は、入口が狭いことと、ほかの法的手続きの代わりにはならないことです。

藤沢市の公表ページは22件それぞれの不調査理由を示していません。そのため、個別の理由を断定することはできません。ただし、他自治体の規定を見ると、どのような案件が対象外になりやすいかが分かります。

本人の利害が必要になる

札幌市では、申し立てられるのは本人が直接的・具体的な不利益を受けている案件です。「税金の無駄遣いではないか」と一般的な問題を指摘するだけでは、本人の利害がないため調査できないと説明しています。

これは個人救済を速やかに行うための線引きです。一方で、不利益が住民全体に薄く広がる公金支出や政策判断は、個人の苦情として扱いにくくなります。そうした案件では、住民監査請求や議会への陳情など、別の仕組みを検討する必要があります。

時間がたった案件や係争中の案件は外れやすい

つくば市では、原則として事実があった日から1年を過ぎた案件、裁判などで係争中の案件、議会や議員に関する案件、監査委員が調査中の案件などを対象外としています。

同じ問題について複数の機関が異なる判断を出す混乱を防ぐ意味はあります。しかし、住民が担当部署との交渉を続けている間に期限を過ぎれば、オンブズマンへ持ち込む機会を失うおそれがあります。

「納得できない」と「行政処理に問題がある」は同じではない

オンブズマンは、住民の希望通りの結果を出す機関ではありません。条例、要綱、過去の運用、担当部署の説明を調べ、処理が合理的だったかを判断します。

制度そのものへの不満があっても、担当部署が現行ルールを適正に適用していれば、「申し立ての趣旨に沿えない」となる場合があります。その際にも、説明が不足していた、案内文が分かりにくかったといった問題が見つかれば、運用改善につながる余地はあります。

行政監視が機能したと言える条件

重要なのは勧告の本数ではなく、調査の独立性、市の応答、公表後の改善まで追跡できるかです。

調査に必要な情報へアクセスできるか

行政の説明だけを受け取るのでは、第三者調査とは呼べません。担当課が持つ記録を確認し、申立人の主張と照合できることが最低条件です。

ただし、オンブズマンは自治体内部の制度でもあります。事務局職員の配置、資料提出への協力、調査結果の公表方法が不十分なら、外部有識者を任命していても独立性は弱まります。

勧告を出した後、市が動いたか

オンブズマンの勧告や意見は、判決のように行政処分を取り消すものではありません。市に改善を求め、回答や措置報告を公表することで実効性を持たせます。

そのため、制度を評価するときは次の流れを通して見る必要があります。

  1. 苦情を受理したか
  2. どの資料を調べ、何を事実と認定したか
  3. どの改善を求めたか
  4. 市が期限内に回答したか
  5. 同じ問題が再発していないか

「勧告ゼロ」は、行政に問題がなかった可能性と、調査対象が狭すぎた可能性の両方を含みます。件数だけでは判定できません。

個別救済から制度改善へ広げられるか

熊本市は2025年度、苦情申し立てとは別に2件の発意調査を掲載しました。その一つでは、町内自治振興補助金の不正受給が疑われた際、市の調査が形式的だったとして、実質的な調査の必要性を指摘しています。市は監督・指導機能の向上に向け、補助金制度の見直しを進めていると報告されました。

もう一つは農地転用後の土地利用で、農業委員会が隣接地との一体利用を積極的に確認する必要性を示しました。個人の訴えを処理するだけでなく、同種の問題を防ぐ手続きへ踏み込む例です。

これはオンブズマンの強みが最も表れる場面です。一人の苦情を、行政組織全体の点検につなげられるか。そこが相談窓口との違いになります。

住民監査請求や行政不服審査とは何が違うのか

オンブズマンは利用しやすさに強みがあり、法的な結論や公金支出の追及には別制度が向いています。

目的に応じて窓口を選ぶ必要があります。

オンブズマンが向く場面

  • 市職員の説明や対応が不合理だった
  • 福祉、道路、公園、ごみ収集などの運用を第三者に調べてほしい
  • 担当課へ申し入れても話が進まない
  • 裁判ほど重い手段を取る前に、無料の調査を求めたい

別制度を検討すべき場面

  • 行政処分の取り消しを法的に求める:行政不服審査や行政訴訟
  • 違法・不当な公金支出を追及する:住民監査請求
  • 市議会や議員へ要望を出す:請願・陳情
  • 犯罪や重大な法令違反が疑われる:警察、監督官庁、専門家への相談

どの手段にも期限や対象要件があります。オンブズマンへ相談している間に、審査請求などの法定期限が止まるとは限りません。処分通知を受け取った場合は、通知書に記載された不服申立ての期限を先に確認することが重要です。

申し立てるなら「何が不当か」を事実で絞る

制度を使う第一歩は、感情を抑えることではなく、行政のどの行為を調べてほしいのかを特定することです。

申立書には、少なくとも次の情報を時系列で整理すると伝わりやすくなります。

  • いつ、どの部署や施設で起きたか
  • 誰から、どのような説明や対応を受けたか
  • 自分にどのような不利益が生じたか
  • 担当部署へ何を確認し、どのような回答があったか
  • どの部分を不合理、不公平、説明不足だと考えるか
  • 求める対応が、再説明、事実確認、謝罪、運用改善のどれか

通知書、メール、申請書の控え、担当者とのやり取りの記録も重要です。「対応が悪かった」という評価だけでなく、発言や手続きの順序を示せば、オンブズマンが行政側の記録と照合しやすくなります。

自治体によって申立方法も違います。札幌市はインターネット、持参、郵送、FAXに対応し、結果が出るまで通常1カ月半から2カ月程度と案内しています。つくば市は事前の電話相談と面接予約を案内し、申立費用は無料です。居住地の自治体に制度があるか、対象期間や匿名申立ての可否も含めて公式サイトで確認してください。

次に見るべきは「22件を調べなかった理由」

藤沢市の運営状況で残った最大の論点は、不調査22件の理由が概要ページだけでは分からないことです。

個人情報を守りながらも、管轄外、期間超過、本人の利害なし、他制度との重複など、理由別の件数が示されれば、市民は自分の案件が対象になるか判断しやすくなります。行政監視の実力を評価する材料にもなります。

今後確認したいのは、次の点です。

  • 不調査となった案件の理由別内訳
  • 申し立ての趣旨に沿った1件で、行政が何を改めたか
  • 相談77件がどの窓口や救済制度につながったか
  • 同種の苦情が翌年度に繰り返されていないか
  • 勧告に至らない指摘や自主的改善が記録・公表されるか

オンブズマンは、行政を外から強制的に止める「裁判所」ではありません。それでも、市役所と住民だけでは平行線になる問題に第三者の目を入れ、個別の苦情から手続きの欠陥を見つけることはできます。その力が本当に働いているかは、受付件数ではなく、調査しなかった理由と、調査後に変わったことを自治体がどこまで公開するかで見えてきます。

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