黒塗り忘れで22人分が漏えい 情報公開請求はどこまで行政を見られるのか
情報公開請求を使えば、住民票のある地域や請求理由にかかわらず、行政が仕事のために作成・取得し、保有している文書の公開を求められます。ただし、行政が持つ情報を無条件ですべて閲覧できる制度ではありません。 個人情報や企業秘密、捜査・交渉などに支障を及ぼす情報は、黒塗りや非公開の対象です。
この境界の重要性を示したのが、神奈川県で2026年6月に公表された誤交付です。県は、情報公開請求者に渡した文書で本来必要だった黒塗りを行わず、22人分の個人情報と4件分の法人情報を漏えいしたと発表しました。
この記事で分かること
- 情報公開請求で確認できる文書の範囲
- 黒塗りや非公開になる情報の考え方
- 神奈川県の誤交付が突きつけた制度運用上の課題
- 実際に請求するときの文書の絞り込み方
神奈川県で何が起きたのか
公開すべき行政情報と守るべき情報を分ける確認作業が機能しなかった事案です。
神奈川県の発表によると、東部漁港事務所は2025年12月9日、情報公開請求を受けた行政文書の写しを請求者へ交付しました。しかし、本来は判読できないように処理すべき箇所を黒塗りしないまま渡していました。
県が問題を把握したのは、交付から約6カ月後です。2026年6月3日に県を相手方とする訴状が届き、その証拠書類を確認する過程で誤交付の可能性が浮上。6月5日に判明し、県は6月9日に公表しました。
漏えいしたと県が説明しているのは、次の情報です。
- 22人分の個人情報
- 4件分の法人情報
- 住所、氏名、職業、電話番号、印影、会社名
- 不動産取引などの経緯や要望内容
交付された文書は訴訟の証拠として裁判所で閲覧可能な状態にもなっていました。県は関係者への謝罪を進め、6月8日付で裁判所に資料の閲覧制限を申し立てています。
原因について、県は「複数の職員による確認が徹底できていなかった」と説明しました。再発防止策として、複数人の確認に加え、所管課長などによる追加確認を行うとしています。
これは情報公開制度そのものが個人情報を公開する仕組みだという話ではありません。むしろ、公開と保護を一つの文書内で正確に切り分けることが、制度を成立させる前提だと示した事案です。
情報公開請求で見られるのは「行政が管理する文書」
対象は行政が知っていること全般ではなく、職員が職務上作成・取得し、組織として保有している文書です。
国の行政機関には情報公開法が適用され、誰でも開示を請求できます。自治体については、それぞれの情報公開条例に基づいて手続きや期限、費用が定められています。このため、国と自治体、自治体同士で細部が異なる点には注意が必要です。
神奈川県では、文書、図画、電子データのうち、県職員が職務上作成または取得し、県の機関が管理しているものが対象です。例えば、内容と保有状況によっては次のような文書が候補になります。
- 公共事業や委託契約の契約書、仕様書、検査記録
- 審議会の議事録、配布資料
- 行政処分や許認可に関する決裁文書
- 災害対応の会議資料や対応記録
- 補助金の交付決定に関する文書
- 行政が取得した事業者の報告書
一方、「担当者がどう考えたか説明してほしい」「この政策が正しいか回答してほしい」といった質問に、新しい回答文を作成してもらう制度ではありません。請求先に該当文書が存在しない場合、行政は請求に答えるためだけに文書を新規作成する義務を負わないのが基本です。
新聞や市販の書籍など、不特定多数への販売を目的に発行されたものも通常は対象外です。公文書館や図書館などで、歴史資料・学術資料として特別に管理される資料も、一般の行政文書とは別の利用制度に委ねられる場合があります。
黒塗りになる情報には理由がある
原則公開であっても、第三者の生活や企業の正当な利益、行政事務の安全まで犠牲にするわけではありません。
国の情報公開法は、行政文書に不開示情報が含まれる場合を除いて開示する義務を定めています。不開示情報が文書の一部だけなら、分離できる範囲を除いて残りを開示する「部分開示」が原則です。黒塗りの文書が届くのは、この仕組みによります。
個人に関する情報
氏名、生年月日、住所、健康状態、相談内容など、特定の個人を識別できる情報や、公開によって個人の権利利益を害するおそれのある情報は保護されます。
ただし、公務員の職務遂行に関する情報や、法令・慣行によって公にされている情報などは、すべて同じ扱いになるわけではありません。文書の性質と記載内容に応じて判断されます。
企業や団体の利益を害する情報
製造方法、価格設定の内訳、取引条件など、公開すると企業や団体の競争上の地位や正当な利益を損なうおそれがある情報は、非公開となる場合があります。
ただし、行政との契約に関係する情報が一律に企業秘密になるわけではありません。公金の支出や契約相手、契約額など、説明責任との関係が強い情報は公開されることがあります。
審議、交渉、検査、犯罪予防に関する情報
公開によって率直な意見交換が不当に損なわれる情報、入札や交渉で行政側が著しく不利になる情報、検査や取締りを逃れる手掛かりになる情報なども対象になり得ます。
重要なのは、「内部資料だから非公開」「検討中だから全部非公開」と自動的に決まるわけではないことです。非公開部分は、法律や条例が定める要件に照らして個別に判断されます。
ここがポイント: 情報公開請求は「全部見せるか、全部隠すか」の二択ではありません。公開できない箇所だけを除き、残りを出せるか検討する部分開示が重要です。
「存在するかどうか」さえ答えない場合もある
文書の有無を答えただけで秘密が明らかになる場合には、存否を示さず請求を拒否できる仕組みがあります。
例えば、特定の個人について捜査・相談・通報に関する文書があるかどうかを回答すれば、それだけで本人の状況を推測できるケースがあります。国の情報公開法第8条は、文書の存在を答えること自体が不開示情報の開示になる場合、存否を明らかにせず拒否できると定めています。
この決定は、単に「文書が見つからなかった」という不存在とは意味が違います。
- 不存在:請求対象として特定された文書を行政が保有していない
- 非公開:文書は対象になるが、不開示情報に該当する
- 部分公開:守るべき箇所を除き、残りを公開する
- 存否応答拒否:文書があるかないかを答えること自体が秘密を明かす
通知を受け取ったら、結論だけでなく、どの決定類型で、どの条例・条文が理由として示されているかを確認する必要があります。
情報公開請求と「自分の個人情報の開示」は別制度
行政が持つ自分自身の記録を確かめたい場合は、情報公開請求ではなく保有個人情報の開示請求が適切なことがあります。
情報公開請求は、行政活動を市民が検証するための制度です。請求者が誰であるかによって公開範囲を変えず、一般に公開できるかを基準に判断するのが基本となります。
これに対し、保有個人情報の開示請求は、本人が行政機関に保有されている自分の情報を確認する制度です。本人確認書類が必要で、代理人による請求にも条件があります。
使い分けの目安は明確です。
- 行政の契約、意思決定、支出を調べたい:情報公開請求
- 自分の相談記録や行政手続の記録を確認したい:保有個人情報の開示請求
- すでに公開されている統計や計画を読みたい:まず公式サイトや情報提供制度を確認
神奈川県には、情報公開請求をすれば明らかに全部公開となる文書を、より簡易・迅速に入手できる情報提供制度もあります。請求書を書く前に、所管課へ「公開済み資料や情報提供で入手できないか」と尋ねると、時間を短縮できる場合があります。
実際に請求するときは「期間・担当課・文書の種類」を書く
請求の成否を左右しやすいのは、問題意識の強さよりも対象文書を特定できる書き方です。
「○○事業に関するすべての資料」のような広すぎる表現では、対象が膨大になり、補正や期間延長につながりかねません。一方、存在するか分からない文書名を断定すると、目的の資料を外す可能性があります。
次の要素を組み合わせると、所管課と対象文書を探しやすくなります。
- 対象期間:2026年4月1日から6月30日まで
- 担当部署:○○課、○○事務所
- 事業・会議名:○○整備事業、第○回○○審議会
- 文書の種類:決裁文書、契約書、議事録、報告書、電子メール
- 知りたい内容:事業者選定、費用算定、事故後の対応方針
例えば、「2026年4月1日から6月30日までに○○課が作成または取得した、○○事業の契約変更に関する決裁文書、見積書および事業者との協議記録」と書けば、期間、部署、案件、文書類型が分かります。
文書名が不明なら、窓口に相談し、行政文書目録や公開済み資料を確認するのが現実的です。国の情報公開法も、行政機関に対し、文書を特定するための情報提供など請求者の利便に配慮した措置を求めています。
神奈川県では誰でも請求でき、決定は原則15日以内
自治体への請求では、その自治体の条例と案内ページを確認することが欠かせません。
神奈川県の制度案内では、誰でも目的を問わず請求でき、請求日の翌日から15日以内に公開・非公開などを決定するとしています。大量の文書を処理する場合などは延長されることがあります。
請求方法は次の3通りです。
- 県政情報センターや所管する出先機関への持参
- 所管課などへの郵送またはファクス
- e-kanagawaによる電子申請
同県では請求と閲覧は無料です。写しの交付は、A3判までの白黒コピーが1面10円、カラーコピーが1面40円など、媒体に応じた費用がかかります。郵送なら送料も必要です。
国の行政機関への請求は別の法律と手続きになります。一部の行政機関ではオンライン請求に対応していますが、対応窓口は一律ではありません。e-Gov文書管理の案内から所管機関の窓口を確認する必要があります。
非公開決定に納得できないときの確認順序
黒塗りが多いという印象だけで判断せず、理由、対象範囲、救済手続きを順に確認することが大切です。
まず、決定通知書に記載された根拠条文と理由を読みます。そのうえで、次の点を整理します。
- 請求した期間や文書の範囲に漏れがないか
- 文書全体ではなく部分公開を検討した形跡があるか
- 非公開理由が個人情報、法人情報、事務への支障など、どの類型なのか
- 「支障がある」とされる場合、その説明が具体的か
- 審査請求の期限と提出先はどこか
神奈川県では、決定に不服があれば取消しを求める審査請求ができます。審査庁の弁明、請求者の反論、県情報公開審査会への諮問と答申を経て、審査庁が裁決する流れです。
ただし、審査請求には時間と準備が必要です。対象文書の指定がずれているだけなら、窓口への確認や請求内容の補正、新たな請求で解決する場合もあります。
今後の焦点は「公開件数」より確認工程の質
制度への信頼は、開示を増やすことと、保護すべき情報を確実に除くことの両方で成り立ちます。
神奈川県の事案では、黒塗り漏れに気づくまで約6カ月を要し、文書が裁判所で閲覧できる状態になっていました。交付前の確認だけでなく、誤交付が起きた後に拡散範囲を把握し、関係者へ連絡する手順も問われます。
今後見るべき点は、次の3つです。
- 課長による追加確認が形式的な押印ではなく、実際の再点検として定着するか
- 電子文書の黒塗りで、コピーや検索によって元情報を読めない処理が徹底されるか
- 誤交付時に、裁判資料や第三者への再提供を含む影響範囲を速やかに追跡できるか
市民ができる実践的な一歩は、まず行政サイトで公開済み資料と文書目録を探し、それでも確認できない意思決定や契約の記録を具体的に請求することです。届いた文書では黒塗りの多さだけを見るのではなく、どの情報が、どの根拠で、なぜ除かれたのかを決定通知書と照らして確認する必要があります。
