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五島の有機農業は「島外へ売るほど苦しくなる」壁を越えられるか

五島の有機農地と、島外出荷を待つ農産物のイメージ。

五島の有機農業は「島外へ売るほど苦しくなる」壁を越えられるか

長崎県五島市が、有機農業を地域ぐるみで広げる「オーガニックビレッジ」を宣言しました。2030年度までに取組面積を75.23ヘクタールから92.13ヘクタールへ、生産者を23人から28人へ増やす計画です。

面積目標だけなら、現状から約22%増と手の届かない数字ではありません。難しいのは、増産した農産物を採算の合う価格で継続的に売ることです。 離島では資材の調達にも島外出荷にも費用がかかるため、生産拡大と販路づくりを同時に進めなければ、農家の負担だけが増えかねません。

この記事の要点は次の3つです。

  • 五島市は2030年度までに有機農業を16.9ヘクタール、農業者を5人増やす目標
  • 離島では小口配送が重なるほど物流費が膨らみ、価格競争が難しくなる
  • 成否を分けるのは、栽培面積よりも「誰が、どれだけ、継続して買うか」の設計
目次

五島市が掲げたのは、生産から消費までをつなぐ計画

今回の宣言は、農家に有機栽培への転換を求めるだけのものではありません。 五島市が全体を取りまとめ、JAごとうや長崎県などと連携し、生産、流通、販売、消費を一体で支える構想です。

市が示した主な取り組みには、次の内容が含まれます。

生産側への支援

  • 有機栽培の試験ほ場を整備する
  • 有機JAS認証の取得を支援する
  • 栽培技術の講習会を開く
  • 地域内での堆肥づくりを進める
  • スマート農業による省力化を支援する

売る側・食べる側への支援

  • 有機農産品の販路を開拓する
  • 取引しやすい環境を整える
  • 消費者向けのPRやキャンペーンを行う
  • 農業体験などを通じて食育を進める
  • 学校給食での活用を目指す

五島市では、かんしょ、ブロッコリー、高菜、かぼちゃなどの栽培が行われています。一方、人口減少と高齢化に伴う担い手不足に加え、本土から約100キロ離れた立地による資材調達費や出荷費が重いという事情があります。

市が有機農業を「儲かる農業の一つの手法」に位置付けたのは、有機という付加価値で離島の不利を補う狙いがあるためです。

最大の壁は、栽培方法より「小さな荷物をどう売るか」

有機農産物は高く売れればよい、という単純な話ではありません。 除草の手間や収量減、認証対応などで生産費が増えやすいうえ、販売量が少ない段階では輸送費も割高になります。

農林水産省は、有機農産物は小ロットで、市場を介さず生産者が宅配便などで個別配送する例が多いため、慣行農産物より流通コストが高くなると説明しています。五島では、そこに海上輸送を伴う離島条件が重なります。

たとえば、農家ごとに少量の商品を島外の消費者や店舗へ送れば、商品価格に占める送料の割合が大きくなります。値上げすれば買い手が限られ、送料を農家が負担すれば利益が薄くなる。増産がそのまま所得増につながらない理由は、ここにあります。

ここがポイント: 有機農業を広げるには、畑を増やす前後で、集荷、選別、保管、加工、配送、販売までを一本の流れとして組み立てる必要があります。

高値を受け入れる消費者はいるが、上限もある

農林水産省の審議会資料に掲載された消費者調査では、有機農産物について「1割高までなら購入したい」とする回答が44.9%、「2~3割高まで」が27.5%でした。一方、「同じ程度の価格なら購入したい」は21.7%です。

この調査自体は2015年度のものであり、現在の物価環境をそのまま表す数字ではありません。それでも、有機農産物の価値を認める層がいる一方、価格差には限度があるという構造は読み取れます。

国内の有機食品市場は2022年に推計2,240億円まで拡大しました。しかし、市場が成長していることと、五島産の商品が採算の合う条件で選ばれることは別問題です。買い手には、価格だけでなく、必要な量が決まった時期に届くことも求められます。

面積拡大より先に、定期的な買い手をつくれるか

五島市の目標達成を左右するのは、単発イベントの売上ではなく、年間を通じた注文です。 販路は一つに絞らず、役割の違う複数の出口を組み合わせる必要があります。

考えられる出口は次の通りです。

  • 市内の小売店や飲食店で日常的に扱う
  • 学校給食で一定量を計画的に調達する
  • 加工業者が規格外品や余剰分を引き取る
  • 島外の小売店や消費者向けに共同出荷する
  • かんしょなどを加工し、日持ちと単価を高める

このうち学校給食は、子どもが地域の農業を知る機会になり、農家にとってはまとまった需要にもなります。ただし、給食には予算、必要量、納品日、形や大きさなどの条件があります。

農林水産省によると、2023年度末には278市区町村が学校給食で有機食品を利用していました。同時に、大口発注に対応できる農家の確保や、規格外品の扱い、安定供給が課題として挙げられています。給食を販路にするなら、市の農政部門だけでなく、教育委員会、栄養教諭、調理現場、生産者の調整が欠かせません。

国の25%目標と、地域の現実には大きな距離がある

五島市の取り組みは、国の大目標を地域の実務へ落とし込む試金石です。 国は「みどりの食料システム戦略」で、2050年までに有機農業を全耕地の25%、100万ヘクタールへ広げる目標を掲げています。

これに対し、農林水産省が2026年6月に公表した2024年度の取組面積は3.98万ヘクタールで、全耕地の0.9%です。25%への道のりは長く、自治体が宣言するだけでは埋まりません。

国、自治体、民間、住民の役割を分けると、必要な動きが見えやすくなります。

  • :技術開発、交付金、認証制度、広域的な流通支援を担う
  • 五島市・長崎県:地域の作物と農家に合う技術支援、集荷、需要開拓を調整する
  • JA・小売・加工・物流事業者:複数農家の荷物をまとめ、継続取引につなげる
  • 住民・消費者:価格だけでなく、生産方法や地域内でお金が循環する価値も含めて購入を判断する

見落としてはいけないのは、環境政策としての成功と農業経営としての成功が同じではない点です。農薬や化学肥料への依存を抑えられても、作業時間や輸送費を販売価格で回収できなければ、担い手は増えません。

次に見るべきは「面積」ではなく3つの数字

五島市は2030年度に向けて、取組面積92.13ヘクタール、農業者28人という明確な目標を置きました。今後は、その途中経過とともに、経営の持続性を測る情報が重要になります。

特に確認したいのは次の3点です。

  • 有機農産物のうち、契約販売や定期取引に回る割合
  • 共同集荷によって、1キログラム当たりの物流費がどこまで下がったか
  • 農家の作業時間と収量を含め、所得が転換前より改善したか

面積と人数が増えても、毎年買う相手がいなければ取り組みは続きません。反対に、市内需要、加工、島外への共同出荷を組み合わせ、農家が翌年の販売を見通せるようになれば、離島の有機農業は付加価値を所得へ変えられます。

五島で次に注目すべきなのは、新たに何ヘクタール増えたかだけではなく、その収穫物を誰が、どの価格で、何年間買うのかです。

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