農地は集まった、でも耕す人がいない 農地バンクの実績が映す「次の壁」
農地バンクは、使われなくなった農地を保管する場所ではありません。所有者から農地を借り、地域で耕作を続ける農業者や法人へまとめて貸す公的な仲介役です。
ただし、農地を動かせても、耕す人そのものは生み出せません。農林水産省が2026年6月に公表した最新実績では、担い手が利用する農地の割合は62.1%まで上昇した一方、農業の中心的な働き手は急速に減っています。土地の仲介だけでは埋められない「人・採算・農地条件」の壁が、制度の次の課題です。
この記事の要点は次の4つです。
- 農地バンクは、貸し手と受け手の間に入って農地を集約する都道府県単位の機関
- 2025年度の農地バンクによる集積面積は約25.9万ヘクタール
- 個人経営体の基幹的農業従事者は5年間で25.1%減少
- 荒れた農地の再生費、機械、人材、収益まで支えなければ貸借は成立しにくい
農地バンクは「土地を預かる倉庫」ではない
制度の中心は、分散した農地を耕しやすいまとまりに組み替えることです。
農地バンクの正式名称は「農地中間管理機構」。都道府県や市町村、農業団体などが出資する法人を、都道府県知事が各都道府県で一つ指定します。
基本的な流れは、次のようになります。
- 農地を貸したい所有者が、市町村や農業委員会、農地バンクへ相談する
- 市町村が地域の話し合いを基に「地域計画」を作り、将来誰がどの農地を使うかを整理する
- 農地バンクが貸付期間、賃料、支払方法などを所有者と受け手の間で調整する
- 都道府県知事の認可・公告を経て、農地バンクが受け手へ貸し付ける
所有者にとっては、農地バンクが賃料を受け取り、まとめて支払うため、個々の耕作者と直接やり取りする負担を減らせます。受け手も、複数の所有者から借りる場合に契約や賃料の窓口を一本化できます。
賃料は全国一律ではありません。農業委員会が示す地域の借賃情報などを参考に、所有者、受け手、農地バンクの三者で決めます。支払時期や手数料の扱いも地域の機構によって異なるため、利用時には地元窓口での確認が必要です。
所有者不明の農地も対象になり得る
相続登記がされていないなど、所有者の一部または全部が分からない農地にも手続きが用意されています。
農業委員会による探索と公示、都道府県知事の裁定などを経て、農地バンクが利用権を取得し、受け手へ貸せる場合があります。ただし、権利関係を無視して直ちに使える制度ではありません。調査と法定手続きが前提です。
なお、日常的に使われる「耕作放棄地」と、農地法に基づいて判断される「遊休農地」は必ずしも同じ概念ではありません。農地バンクへの相談では、登記、現況、再生の難しさを一筆ごとに確認することになります。
集積率62.1%でも、担い手不足が解けない理由
土地を集める速さより、耕す人が減る速さの方が問題になっています。
農林水産省によると、2025年度の担い手への農地集積面積は前年度から0.7万ヘクタール増え、全耕地面積に占める割合は62.1%になりました。農地バンクによる集積面積は約25.9万ヘクタールで、新規集積面積全体の約6割を占めています。
制度が土地の移動に役立っていることは、数字から確認できます。一方、2025年農林業センサスでは、個人経営体の基幹的農業従事者は102万1千人。5年前から34万2千人、率にして25.1%減りました。
さらに、2025年3月末時点の地域計画では、計画区域内の農地のうち139万ヘクタール、32.8%で10年後の耕作者が決まっていませんでした。
ここがポイント: 農地バンクは「貸したい人」と「借りたい人」の調整には強い一方、「借りたい人がいない地域」で新たな経営者や働き手を自動的に生み出す制度ではありません。
農地が増えるほど人手と機械も必要になる
隣接する田畑をまとめれば、移動時間を減らし、大型機械を使いやすくできます。これは農地バンクの大きな利点です。
しかし、受け手の経営面積が広がれば、作付け、草刈り、水管理、収穫に必要な人員も増えます。トラクターやコンバイン、乾燥設備への投資も避けられません。農地を借りる費用が低くても、営農全体の負担が軽いとは限らないのです。
受け手の審査でも、耕作に必要な機械、従事者の人数や配置、現在利用している農地の状況などが確認されます。単に「借りたい」と申し出れば、無条件で広い農地を借りられる仕組みではありません。
荒れた土地は、借りた翌日から耕せない
長期間使われなかった農地には、雑木、深い雑草、壊れた水路、崩れた石垣、排水不良などが残ります。農地バンクが権利を整理しても、これらの再生費は消えません。
特に中山間地域では、一枚ごとの面積が小さい、傾斜がある、農道が狭いといった条件が重なります。面積だけを足し合わせても、平地のまとまった農地と同じ効率では耕せません。
ここは、集積面積だけでは見えにくい論点です。重要なのは何ヘクタール動いたかだけでなく、受け手が継続して利益を出せる状態で渡せたかです。
徳島県の再生支援は何を補おうとしているのか
徳島県の取り組みは、農地の貸借と再生作業を切り離せないことを示しています。
県は2025年度から「耕作放棄地フル活用事業」を開始しました。農地バンクが転貸した耕作放棄地について、借り受けた人が行う障害物の除去、深耕、整地などを定額で支援し、上限は14万円です。
農林水産省の取りまとめでは、2025年度に10件、5.3ヘクタールの遊休農地を解消する予定とされました。全国規模の数字から見れば小さいものの、この事例が示す役割分担は明確です。
- 農地バンク:所有者と受け手をつなぎ、貸借を成立させる
- 徳島県:再生作業への支援制度を用意する
- 市町村・農業委員会:地域計画、利用意向の確認、現地調整を担う
- 受け手:再生後の農地で実際に営農し、維持管理する
つまり、公費による再生支援は「誰も使わない土地をとりあえずきれいにする」ためではありません。耕す人が決まり、利用につながる農地の初期負担を下げるための支援です。
この順序は重要です。受け手が見つからないまま再生しても、翌年から再び草が伸び、地域の管理負担が戻る可能性があります。
貸し手、受け手、住民が確認したいこと
制度を暮らしに引きつけると、立場によって確認点が変わります。
農地を貸したい所有者
まず相談先になるのは、農地がある市町村の農政担当窓口、農業委員会、または都道府県の農地バンクです。
相談時には次を整理しておくと話が進みやすくなります。
- 所在地、面積、登記名義人
- 現在の耕作・管理状況
- 希望する貸付期間と賃料
- 水路、農道、境界、設備の状態
- 相続人や共有者の有無
農地バンクへ申し込んでも、必ず借り受けられるとは限りません。受け手の見込み、農地の条件、地域計画との整合などが確認されます。
農地を借りたい人や法人
賃料だけで判断せず、再生と維持にかかる費用を含めて検討する必要があります。
- 草刈りや伐採、整地にいくらかかるか
- 水利費や共同作業の負担があるか
- 農道に所有する機械が入れるか
- 既存の圃場から離れすぎていないか
- 収穫物の販売先と必要な人員を確保できるか
新規就農者の場合、土地の確保だけでなく、研修、住宅、機械、資金、販路を同時に組み立てなければ経営は始まりません。地域外から人を呼ぶなら、農地バンクと就農支援を一体で動かす必要があります。
周辺住民
使われない農地が増えると、雑草、害虫、鳥獣被害、水路の詰まりなどが周辺にも及びます。そのため、農地バンクは農家だけの話ではありません。
一方で、農地を大規模にまとめれば、機械の往来、農薬散布、用水管理などについて新たな調整が必要になることもあります。地域計画の話し合いでは、「誰が借りるか」だけでなく、管理や連絡の責任者まで決めることが欠かせません。
次に見るべき数字は「成立面積」だけではない
農地バンクの集積率は、制度が動いているかを測る重要な指標です。ただし、担い手不足への答えを知るには、それだけでは足りません。
今後は次の点を併せて見る必要があります。
- 10年後の耕作者が未定の139万ヘクタールがどこまで減るか
- 再生した遊休農地が数年後も耕作されているか
- 受け手一人当たりの面積拡大に、人員と機械が追いついているか
- 新規就農者や農業法人が、土地取得後も経営を継続できているか
- 条件の悪い農地を誰が管理し、その費用を負担するか
農地バンクは、所有者が別々の農地をまとめ、耕せる人へ渡すための基盤です。だが、受け手がいない地域では、土地を集めるだけで問題は終わりません。
次の分岐点は、農地の再生支援、就農研修、雇用、機械投資、販路確保を地域ごとに結び付けられるかどうかです。自分の地域で農地バンクの実績を見るときは、集めた面積の先に、実際に耕し続ける人が何人いるのかを確かめる必要があります。
