介護の「1,000単位」が1万円とは限らない 地域で自己負担が変わる計算ルール
介護保険のサービス料金は、全国共通の「単位数」だけでは決まりません。事業所がある地域とサービスの種類によって、1単位を何円で計算するかが変わるため、同じ1,000単位でも総額や自己負担に差が出ます。
この調整が介護報酬の「地域区分」です。現在の区分は2024年度から2026年度まで適用され、2027年度の介護報酬改定に向けた見直しも始まっています。
- 地域区分は「1級地」から「7級地」と「その他」の8区分
- 基本の1単位10円に、地域とサービス別の人件費差を反映
- 利用者の自己負担は、計算後のサービス費の原則1割、所得により2割または3割
- 2027年度からの区分は、国が市町村への調査と審議を経て示す予定
同じ1,000単位でも1万1,400円になる
料金差の正体は、単位数ではなく「1単位の単価」です。
介護サービスの費用は、基本的に次の順で計算されます。
- 利用したサービスの単位数を合計する
- 事業所所在地の地域区分を確認する
- サービス種類ごとの1単位単価を掛ける
- 加算や減算を反映する
- 利用者の負担割合に応じて自己負担額を算出する
たとえば、訪問介護を1,000単位利用した場合を単純化して比べると、次のようになります。
- 1級地:1,000単位 × 11.40円 = サービス費1万1,400円
- その他:1,000単位 × 10.00円 = サービス費1万円
1割負担なら、自己負担の目安はそれぞれ1,140円と1,000円です。2割負担なら2,280円と2,000円、3割負担なら3,420円と3,000円になります。
実際の請求では月単位の端数処理、各種加算、支給限度額を超えた利用などが関わるため、上の数字は仕組みを理解するための概算です。
事業所の所在地が基準になる
ここで間違えやすいのが、地域区分は原則として利用者の住所ではなく、サービスを提供する事業所の所在地で決まる点です。
自治体境の近くでは、生活圏がほぼ同じでも事業所の所在地が違えば単価が異なる場合があります。引っ越していなくても、利用する事業所を変更した結果、同じ種類のサービスで自己負担が変わることもあり得ます。
なぜ全国一律の10円にしないのか
主な理由は、介護職員などを雇う費用に地域差があるためです。
介護報酬は国が定める公定価格です。事業者が地域の賃金水準に合わせて自由にサービス料金を上げることはできません。そこで、賃金が高い地域でも人材を確保しやすくするため、報酬のうち人件費に相当する部分を地域別に補正しています。
現行制度では、地域ごとの上乗せ割合は次の8段階です。
- 1級地:20%
- 2級地:16%
- 3級地:15%
- 4級地:12%
- 5級地:10%
- 6級地:6%
- 7級地:3%
- その他:0%
ただし、この割合が料金全体へそのまま加算されるわけではありません。サービスごとに設定された「人件費割合」にだけ反映されます。
訪問系ほど地域差が大きい
人件費割合は、サービスの性質に応じて70%、55%、45%の3類型に分かれます。
1級地を例にすると、計算は次のようになります。
- 人件費割合70%:10円 ×(1+20%×70%)=11.40円
- 人件費割合55%:10円 ×(1+20%×55%)=11.10円
- 人件費割合45%:10円 ×(1+20%×45%)=10.90円
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護などは人件費割合70%の類型に入り、地域差が最も大きく反映されます。一方、居宅療養管理指導や福祉用具貸与など、地域区分にかかわらず1単位10円となるサービスもあります。
ここがポイント: 「都市部だから介護サービスの内容が上等で高い」のではありません。公定価格のうち、職員を確保するための人件費差を補正した結果です。
誰が区分と費用負担を決めるのか
地域区分は自治体が自由に設定する料金ではなく、国の介護報酬制度の一部です。
関係者の役割を分けると、仕組みが見えやすくなります。
- 国:介護報酬の単位数、地域区分、1単位単価、利用者負担の基本ルールを定める
- 市区町村:介護保険の保険者として認定や給付を担い、地域区分見直しの際には国の意向調査に回答する
- 介護事業者:提供したサービスの単位数と所在地の単価を使って費用を請求する
- 利用者:所得に応じて原則1割、2割または3割を負担する
- 保険料・公費:利用者負担を除く給付費を、制度上の割合に基づいて支える
なお、「地域区分」と「65歳以上の介護保険料が市区町村ごとに違うこと」は別の仕組みです。
地域区分はサービス費を計算する単価の補正です。一方、第1号被保険者の保険料は、市区町村が3年間の給付費見込みなどを基に定めます。どちらも地域差がありますが、料金表で同じものとして扱うと誤解につながります。
利用者が確認すべきは請求額だけではない
自己負担の差を確かめるときは、地域区分、負担割合、加算を切り分ける必要があります。
オンライン上の介護保険Q&Aでも、「同じサービスなのに地域で利用料が違うのか」という疑問が取り上げられています。地域差そのものへの違和感に加え、単位数と円換算の関係が分かりにくいことが、混乱の一因です。
料金に疑問がある場合は、ケアマネジャーや事業所へ次の点を確認すると整理しやすくなります。
- 事業所所在地の地域区分は何級地か
- 利用したサービスの1単位単価はいくらか
- 基本報酬以外にどの加算が付いているか
- 自分の負担割合は1割、2割、3割のどれか
- 区分支給限度基準額を超えた利用がないか
- 食費、居住費、日用品費など保険給付外の費用が含まれていないか
利用者負担には所得区分ごとの月額上限を設ける「高額介護サービス費」もあります。ただし、食費や居住費などは対象外になるため、請求書の総額すべてが上限計算に入るとは限りません。
地域差の補正が新たな地域差を生む難しさ
制度の課題は、客観的な基準を使っても自治体境で段差が生じることです。
現在の地域区分は、民間賃金の地域差を反映する国家公務員の地域手当を基礎にしています。ただ、職員の採用圏や通勤圏は市区町村の境界で分かれるとは限りません。隣接自治体より級地が低ければ、事業所は近隣と人材を奪い合いながら、低い単価で運営することになります。
反対に級地を上げれば、事業者の収入だけでなく利用者の自己負担と保険給付費も増えます。人材確保だけを見て上げればよい、という単純な問題ではありません。
このため、2024年度からの設定では、周囲の地域との級地差などを考慮する特例や、単価の急変を抑える経過措置が設けられました。制度が目指すのは全国同額ではなく、地域の雇用費を反映しながら介護サービスを維持することです。
2027年度の見直しで何を見るべきか
次の焦点は、国家公務員の地域手当改定を介護報酬へどう反映するかです。
国家公務員の地域手当は、設定地域の広域化や区分数の見直しが段階的に進んでいます。厚生労働省は2027年度の介護報酬改定に向け、市町村の意向や地方公務員の地域手当などを調査し、2026年末ごろに新しい地域区分を市町村へ示す予定です。
今後は次の点が分岐点になります。
- 現在の8区分をどの程度組み替えるのか
- 級地が下がる地域に経過措置を設けるのか
- 県境や隣接自治体との単価差をどう抑えるのか
- 人材確保への効果と、利用者・保険財政の負担増をどう両立させるのか
家族の介護サービスを選ぶ際は、表示された単位数だけで判断せず、「この事業所では1単位が何円か」まで確認することが実用的です。そして2026年末に示される予定の新たな区分は、2027年度以降の自己負担と地域の事業所経営の両方を左右する重要な確認点になります。
