「無償化」で私立へ約1000人移動 北海道の高校選びに表れた地域差
高校授業料の支援拡充で、学校選びはすでに動き始めています。北海道教育委員会の速報分析では、2026年度の高校1年生が公立から私立へ約1000人移ったとみられ、私立の在籍割合は前年度より2.7ポイント上昇しました。
ただし、授業料の差が縮まっても、すべての地域で選択肢が同じように増えるわけではありません。私立高校が集まる石狩学区への流入が増える一方、遠距離通学や下宿が必要な地域では、授業料以外の負担が学校選びを左右します。
- 私立高校の支給上限は年45万7200円、所得制限は撤廃
- 北海道では公立1年生が951人減り、私立は936人増加
- 私立の在籍割合は27.5%から30.2%へ上昇
- 入学金、施設費、制服代、通学費などは別に確認が必要
北海道で起きたのは、ほぼ「公立から私立への移動」
生徒数全体の増減では説明できない規模で、公立から私立への移動が起きました。
北海道教育委員会の影響分析によると、高校1年生の在籍者数は次のように変化しています。
- 公立高校:2万4995人から2万4044人へ、951人減
- 私立高校:9479人から1万415人へ、936人増
- 公私立の合計:3万4474人から3万4459人へ、15人減
比較時点は2025年度が5月1日、2026年度が4月1日であり、数字を完全に同条件で比べたものではありません。それでも、公私立の合計がほぼ変わらないなかで、一方が約950人減り、もう一方が約940人増えた形です。道教委は「入学者が約1000名、私立高校へシフトしている」と整理しています。
私立高校が高校1年生全体に占める割合も、27.5%から30.2%へ上昇しました。2.7ポイントの伸びは、過去10年間で最大です。
併願先から「実際に進む学校」へ
私立高校への志願者数は、全道で3万91人から3万282人へ191人増えたにすぎません。これに対し、入学者は8639人から9612人へ973人増えました。
つまり目立つのは、志願者の急増よりも、私立に合格した生徒がそのまま入学する割合の上昇です。志願者に対する入学者の割合は28.7%から31.7%へ、3ポイント上がりました。
道立高校の学力検査を欠席した受験者についても、欠席理由を「私立高校を志望」とした割合が、過去3年平均の50.6%から63.4%へ上昇しています。私立を安全策として確保したうえで公立を目指す従来の選び方から、早い段階で私立への進学を決める動きが強まったことを示す材料です。
ただし、この速報だけで個々の家庭の決定理由までは分かりません。授業料支援のほか、教育内容、大学進学実績、部活動、校風、通学条件なども選択に関わります。道教委は生徒と保護者へのアンケートを加えた詳細分析を、秋ごろに公表する予定です。
「無償」になったのは、原則として授業料の範囲
私立を選びやすくする制度ですが、学校生活に必要な費用がゼロになる制度ではありません。
2026年4月から、高等学校等就学支援金の所得制限が撤廃されました。全日制の場合、国の支援上限は次の通りです。
- 公立高校:年11万8800円
- 私立高校:年45万7200円
私立全日制の上限は、それまでの年39万6000円から6万1200円引き上げられました。支援額は授業料が上限となるため、学校の授業料が45万7200円を下回れば、その授業料額までが対象です。反対に上限を超えた分は、自治体や学校の補助がなければ家庭が負担します。
また、文部科学省の制度案内が示す通り、支援を受けるには申請が必要です。原則として学校を通して手続きを行い、支援金は授業料に充てられます。
学校比較では「授業料以外」を分けて見る
受験前には、少なくとも次の費用を授業料と分けて確認する必要があります。
- 入学金や施設整備費
- 制服、指定用品、教材、端末の購入費
- 修学旅行や研修、部活動の費用
- 通学定期、スクールバス、下宿の費用
- 支援金が反映されるまでの一時的な立て替え
文部科学省も、私立高校に対し、授業料だけでなく入学金や施設整備資金などを一覧化して保護者へ示すよう求めています。低・中所得世帯には授業料以外の教育費を支える「高校生等奨学給付金」もありますが、対象要件や申請先は就学支援金と同じではありません。
ここがポイント: 「無償化後の学費」だけで比べず、3年間の納付金と通学費を合計し、利用できる国・自治体・学校独自の支援を差し引いて判断することが重要です。
選択肢が増えた地域と、移動負担が増えた地域
全国一律の支援は授業料差を縮めますが、学校の配置までは均等にしません。
北海道の速報では、私立高校の在籍割合の伸びに地域差が出ました。
- 胆振西学区:5.5ポイント増、私立入学者56人増
- 上川南学区:4.0ポイント増、110人増
- 石狩学区:3.7ポイント増、671人増
- 胆振東学区:2.8ポイント増、39人増
- 十勝学区:1.4ポイント増、17人増
私立高校が多い石狩学区には、他学区から入学した生徒が590人から666人へ76人増えました。釧路から石狩への移動は28人から49人へ、胆振東から石狩へは49人から67人へ増えています。
これは、授業料支援によって遠方の私立も候補に入れやすくなった可能性を示します。一方で、自宅から通えなければ下宿代や生活費が発生します。都市部の家庭は通学圏内の複数校を比較できても、私立校が少ない地域では、制度を利用するために家族が追加費用や別居を受け入れなければならない場合があります。
制度の恩恵は同じ上限額でも、実際の「選べる学校数」には差が残るのです。
私立志向を公立の失敗だけで説明できない
今回の数字は公立高校への警告ですが、公立の教育内容だけを原因と決めつけるのは早計です。
授業料という大きな条件が変われば、これまで費用面で私立を候補から外していた家庭が比較に加えるのは自然です。先行して独自の無償化を進めた大阪府でも、2025年度の私立高校新入生の保護者7551人を対象にした調査で、78.2%が制度は私立進学に影響したと回答しました。
同じ調査では、私立を選んだ理由として「施設設備の充実」が決定的またはある程度の理由になったとの回答が74.3%でした。費用差が縮むと、家庭は校舎や設備、教育内容といった条件を以前より重く見られるようになります。
一方、北海道と大阪では人口密度、学校数、通学圏が異なります。大阪の数字をそのまま全国へ当てはめることはできません。北海道の結果が浮かび上がらせたのは、都市部では私立との競争が強まり、地方では公立が地域の教育機会を支える役割を引き続き担うという二つの局面です。
ネット上でも、家計負担の軽減を歓迎する声がある一方、「授業料以外の費用が見えにくい」「私立校の少ない地域では選択肢が増えない」「公立高校の定員割れが進むのではないか」といった懸念が語られています。こうした受け止めは、北海道の速報が示す費用と学校配置の問題とも重なりますが、個別の投稿を世論全体とみなすことはできません。
家庭・学校・行政が次に確認すべきこと
次の焦点は、私立への移動人数ではなく、移動後も地域の教育機会を維持できるかです。
意思決定と負担の役割は、次のように分かれます。
- 国:就学支援金の対象、上限額、制度の基本条件を定める
- 都道府県:申請事務や独自支援を担い、公私立の配置と定員を調整する
- 私立学校:授業料や入学金などを設定し、費用を分かりやすく公表する
- 公立学校・設置者:地域で必要な学科や通学可能な教育機会を維持する
- 生徒・保護者:教育内容と3年間の総費用、通学条件を比較して申請する
制度には、施行後3年以内に検証し、必要な見直しを行う規定があります。参議院の調査資料も、私立への進学者増加に伴う公立高校への影響や、合理性のない授業料値上げ、教育格差の拡大を検証課題として挙げています。
今後、特に見るべきなのは次の3点です。
- 私立への移動が2027年度以降も続くのか
- 公立の定員、学科、教員配置が地域でどう変わるのか
- 入学金や通学費を含む実負担の地域差が縮まるのか
北海道では秋に詳細分析が予定されています。そこで家庭の選択理由や所得、地域との関係が明らかになれば、「授業料が下がったから私立へ移った」という説明を超え、どの地域にどの支援が足りないのかを判断しやすくなります。
中学生と保護者が今できるのは、学校案内の授業料だけを見て結論を出さないことです。候補校ごとに3年間の総費用と通学時間を書き出し、自治体の独自助成を確認する。その比較表が、無償化後の学校選びで最も実用的な出発点になります。
