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「1時間以内」なら十分ではない 町田市の学校再編が示す通学30分という判断軸

学校統合後の通学を想定し、住宅地のバス停でスクールバスを待つ児童。

「1時間以内」なら十分ではない 町田市の学校再編が示す通学30分という判断軸

学校統合後の通学時間に、全国一律の「許容上限」はありません。文部科学省はおおむね1時間以内を一応の目安としていますが、低学年の体力、安全、待ち時間、放課後の生活まで含めて自治体が判断すべきだとしています。

東京都町田市は2026年3月、学校統合で通学距離が延びる子どもについて、通学時間をおおむね30分程度にする基本方針を策定しました。国の目安の半分です。統廃合を学校数の整理だけで終わらせず、子どもの一日をどう守るかが問われています。

  • 国の「1時間」は絶対的な上限でも、安全を保証する基準でもない
  • 町田市は徒歩2キロ超を配慮対象とし、通学30分程度を目指す
  • 路線バスを優先し、利用できなければ人数に応じてタクシーや専用バスを検討する
  • 判断には登校時だけでなく、学童、下校便、運転士、費用も含める必要がある
目次

町田市は「徒歩2キロ超・通学30分」を基準にした

町田市の方針で重要なのは、距離だけでなく実際の所要時間と交通手段を組み合わせた点です。

市は児童・生徒数の減少と校舎の老朽化に対応するため、2040年度までを見据えた学校再編を進めています。一方、一部の統合対象地区では、路線バスがなかったり、直通便がなく乗り換えが必要だったりします。

そこで市は、統合によって徒歩の通学距離が2キロを超える児童・生徒を配慮の対象とし、通学時間がおおむね30分程度になるように交通手段を検討します。基本となる順序は次の通りです。

  1. 路線バスで30分程度の通学が可能か確認する
  2. 運行本数、混雑、バス停の安全、利用人数を調べる
  3. 路線バスが使いにくければ、対象人数に応じて別の手段を検討する

路線バス以外の目安は、30人未満ならスクールタクシー、30~50人ならマイクロバス、50人超なら大型スクールバスです。ただし、これは自動的に導入を決める基準ではありません。実施方法は統合時の児童・生徒の分布や交通状況を踏まえ、地区で議論したうえで教育委員会が決定します。

国の「1時間以内」は合格ラインではない

国の目安は自治体が検討を始める材料であり、60分まで負担を求めてよいという意味ではありません。

文部科学省の手引は、徒歩・自転車による距離について小学校4キロ以内、中学校6キロ以内をおおよその目安としています。交通機関を使う場合は、過去の統合事例の9割以上が1時間以内だったことなどから、通学時間をおおむね1時間以内とする考え方を示しました。

同時に、手引は機械的な適用を否定しています。自治体が見るべき要素として挙げているのは、次のような具体的な条件です。

  • 低学年と高学年の体力差
  • 徒歩、自転車、バスそれぞれの安全性
  • 道路事情や積雪、暑さなどの気候条件
  • 長時間通学による疲労や家庭学習時間への影響
  • 学校、家庭、地域、行政の役割分担

足利市も2026年に公開した学校再編のQ&Aで、自宅から学校まで「おおむね40分以内」を目安とし、超える場合や安全上の懸念がある場合にはスクールバスを積極的に検討すると説明しています。町田市の30分、足利市の40分、国の1時間という違いは、地域が独自に、より厳しい基準を置けることを示しています。

ここがポイント: 通学時間は「家を出てから校門まで」で測り、徒歩、停留所での待機、乗り換えを含めて考える必要があります。乗車時間だけでは子どもの負担を捉えられません。

見落としやすいのは「帰りの交通」

統廃合の通学対策は、朝の登校便を確保しただけでは完成しません。

授業の終了時刻は学年や曜日で異なります。委員会活動、学校行事、体調不良による早退もあります。小学生が学童保育を利用する場合は、長期休業日や最長開所時刻までの移動手段も必要です。

町田市の方針が学童への登降所も対象にし、学校内の送迎用駐車スペースまで検討事項に含めたのは、このためです。家庭による自家用車送迎を暗黙の前提にすれば、車を使えない世帯や勤務時間を調整しにくい世帯ほど不利になります。

確認すべきなのは、平均時間よりも、日々の運用です。

  • 最も遠い子どもは何時に家を出るのか
  • 低学年の下校時刻に便があるか
  • 欠便や遅延時に誰が連絡し、代替輸送を手配するか
  • 学童や放課後活動の終了後にも利用できるか
  • 保護者負担はいくらで、きょうだいがいる家庭にどう配慮するか

スクールバスにも運転士と財源の壁がある

バスを出すと決めても、継続して走らせられるとは限りません。

町田市は路線バスを第一の手段としていますが、運転士不足による減便や路線廃止を課題に挙げています。専用バスは時刻や乗車場所を調整しやすい一方、路線バスより高額で、車両だけでなく運転士と安全管理体制も必要です。

国には、統廃合に伴うスクールバスなどの購入費や遠距離通学費について、原則2分の1を補助する制度があります。ただし、遠距離通学費の補助期間は5年間です。統合後も通学は続くため、自治体は国の支援終了後を含む運行費を示さなければなりません。

町田市はスクールバスやスクールタクシーの利用者にも、既存の通学費補助制度の自己負担額と同程度の負担を求める考えです。統合によって生じた追加費用を誰がどこまで負担するのかは、運行ルートと同じ段階で説明すべき論点です。

学校が遠くなることは地域維持にも響く

学校統合の直接の対象は子どもですが、結果は地域の暮らしにも及びます。

文部科学省は、学校が教育施設だけでなく、防災、保育、交流の場として機能している地域があると指摘しています。統合によって教育環境が充実する可能性がある一方、通学手段が不安定なら、子育て世帯が住み続けにくくなる問題も生じます。

鳥取市が2026年6月に公開した市民提案では、スクールバスが確保されなければ中山間地域から中心部への転居を促しかねないとの懸念が示されました。市教育委員会は、学校、保護者、地域住民の意見を聞き、意向がまとまった地域から再編を進めると回答しています。

こうした受け止めを単なる賛否として処理すると、本当の争点を見失います。問われているのは「学校を残すか」だけではなく、統合後もその地域で子育てを続けられる交通と生活基盤を用意できるかです。

地域で確認したい5つの数字

統合案の説明を受ける際は、「1時間以内だから問題ない」という説明だけで判断せず、次の数字を確認することが実用的です。

  • 自宅から学校までの最長所要時間
  • 徒歩、待ち時間、乗り換えを含む所要時間
  • 学年・曜日別の下校便数と最終便時刻
  • 年間運行費、保護者負担、国庫補助終了後の財源
  • 統合後に欠席、遅刻、疲労感、学童利用へ変化があったか

町田市の方針は、事前に検証項目と時期を決め、地域の実情に応じて交通対策を見直すとしています。次の注目点は、30分という目安そのものより、統合後の実測値と子どもの状態を公開し、便数や停留所を修正できる仕組みが機能するかどうかです。

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