「辞められる」と「次で働ける」は別問題 外国人労働者の転職を在留資格から読み解く
外国人労働者の転職制限が問題になるのは、退職の可否だけでなく、次の職場で合法的に働き続けられるかが在留資格に左右されるためです。
ただし、すべての外国人に同じ制限があるわけではありません。焦点は、現行の技能実習と、2027年4月に始まる育成就労です。育成就労では本人希望の転籍が初めて制度化されますが、同じ業務区分、技能・日本語能力、1~2年の制限期間といった条件が付きます。
- 外国人労働者の転職ルールは、在留資格によって異なる
- 技能実習では、本人都合による自由な転籍は原則として認められていない
- 育成就労では条件付きで本人希望の転籍が可能になる
- 最大の論点は、人材育成と職業選択をどう両立させるかにある
転職できるかどうかは「外国人」という属性だけでは決まらない
最初に確認すべきなのは、本人が持つ在留資格と、新しい仕事の内容です。
厚生労働省によると、2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人で過去最多となりました。このうち技能実習は49万9,394人です。外国人雇用が身近になった一方、在留資格ごとの違いは十分に知られていません。
主な違いを整理すると、次のようになります。
- 永住者や日本人の配偶者等など:就労活動に原則として職種の制限がなく、一般の労働者に近い形で転職できる
- 技術・人文知識・国際業務など:新しい仕事が在留資格で認められた活動に該当する必要がある
- 特定技能:転職は可能だが、所属機関を変更する場合には在留資格変更許可申請が必要。許可前に転職先で働くことはできない
- 技能実習:本人の希望だけによる転籍は原則不可。人権侵害や重大な契約違反、受け入れ企業の経営事情など、やむを得ない事情がある場合に認められる
- 育成就労:2027年4月から、一定条件の下で本人希望による転籍が認められる
つまり、「外国人は転職できない」という説明も、「自由に転職できる」という説明も正確ではありません。在留資格が認める活動と、新しい勤務先で必要な手続を分けて考える必要があります。
なぜ転籍制限が生活上の問題になるのか
職場を離れる自由があっても、次の就労先へ移れなければ、劣悪な環境から抜け出す力は弱くなります。
日本人を含む通常の労働者は、賃金や勤務時間、職場環境に納得できなければ、退職して別の会社を探せます。転職の選択肢があること自体が、企業に待遇改善を促す力にもなります。
一方、技能実習生が転籍するには、「やむを得ない事情」があることを説明し、新たな実習先を確保しなければなりません。入管庁は2024年11月、暴力やハラスメント、重大な法令違反、契約と実態の大きな相違などを明確化しました。これは保護の拡充ですが、単に「賃金の高い職場へ移りたい」「地域を変えたい」という希望だけで自由に移れる制度ではありません。
制限が重く作用しやすいのは、次のような場面です。
- 契約時の説明と実際の残業時間や仕事が違う
- 職場の人間関係が悪化したが、人権侵害と認定されるほど明確な証拠がない
- 生活費が上がり、より高い賃金の仕事へ移りたい
- 家族や知人の近くへ転居したい
- 転籍手続中の収入や住居を確保できない
問題は、転籍制限だけではありません。来日前に負担した費用、言葉の壁、住居が勤務先と結び付いていること、相談窓口までの距離が重なると、制度上の救済があっても利用しにくくなります。
ここがポイント: 退職できることと、在留を維持しながら別の職場で働き始められることは同じではありません。後者に高い条件が付くほど、労働者と雇用主の交渉力に差が生まれます。
育成就労で何が変わるのか
新制度の大きな変更は、本人の意向による転籍を例外ではなく、条件付きの仕組みとして設けることです。
技能実習を発展的に解消して設けられる育成就労は、2027年4月1日に始まります。原則3年間の就労を通じて、特定技能1号の水準まで人材を育成する制度です。
本人希望で転籍するには、主に次の条件を満たす必要があります。
- 同一の業務区分内で移る
- 分野別に定められた技能水準に達する
- 分野別に定められた日本語能力を身に付ける
- 同じ受け入れ機関で、分野ごとに定める1年以上2年以下の期間を働く
- 転籍先が受け入れ要件を満たす
分野別運用方針で1年を超える期間が設定されていても、受け入れ機関は自らの判断で制限期間を1年に短縮できます。逆にいえば、本人が一方的に短縮できる仕組みではありません。
また、暴力やパワーハラスメントなどの人権侵害がある場合は、制限期間を待たず、「やむを得ない事情」による転籍の対象となります。通常の本人希望による転籍と、緊急性のある保護目的の転籍を混同しないことが重要です。
なぜ1~2年の制限を残すのか
政府が制限を残した主な理由は、受け入れ企業が負担する育成コストと、地方や中小企業からの急激な人材流出への配慮です。
企業は、来日前後の手続、日本語教育、技能指導、生活支援などを担います。入社直後に別企業へ移られると、費用を負担した企業だけが人材を失うという懸念があります。人手不足が深刻な農業、介護、製造、建設などでは、より賃金の高い都市部へ人材が集中するとの警戒もあります。
一方、制限を長くすれば、労働者が待遇の悪い職場から離れにくくなります。経済同友会も、産業分野や業務区分による例外を設けず、本人希望の転籍制限を1年までにすべきだと提言しました。国連の特別報告者らも、転籍制限や労働者が負担する仲介費用などについて日本政府へ説明を求めています。
公表資料や制度をめぐる意見で対立しているのは、転籍を認めるか否かだけではありません。
- 受け入れ側は、教育費を回収する前の人材流出を懸念する
- 権利擁護側は、最大2年の制限が雇用主への過度な従属を残すとみる
- 地方では、都市部との賃金・住居・交通条件の差を転籍制限だけで補えるのかが問われる
- 労働者側には、技能・日本語試験や手続が実質的な壁にならないかという不安がある
この対立は、制限期間の数字だけでは解けません。企業が負担した適正な初期費用をどう分担するか、地方の賃金や住環境をどう改善するか、転籍先を誰が公平に紹介するかまで設計する必要があります。
自治体と地域の暮らしにも関係する
転籍は企業間の人材移動であると同時に、住民登録、住居、医療、学校、相談支援が動く生活上の移転です。
国は在留資格と受け入れ制度を設計し、出入国在留管理庁が申請や監督を担います。企業や監理支援機関は、雇用、技能育成、生活支援を担います。
自治体に求められる役割は別です。転職や転居が生じたとき、外国人住民が地域で生活を続けられるよう、多言語相談、住居確保、社会保険、子どもの就学、医療への接続を支える必要があります。
特に注意したいのは、相談先が勤務先だけになっているケースです。雇用条件への不満を、その雇用主に通訳してもらわなければ伝えられない状態では、制度があっても声を上げにくくなります。自治体、労働局、外国人技能実習機構、法テラスなど、雇用主から独立した窓口につながる導線が欠かせません。
2027年の施行までに見るべき点
新制度の評価を分けるのは、「転籍可能」という法律上の表現ではなく、実際に移れるかどうかです。
今後は次の点を確認する必要があります。
- 技能・日本語能力の判定が適切な時期に受けられるか
- 転籍希望を伝えたことで不利益を受けない仕組みが機能するか
- 転籍先の求人情報が本人の理解できる言語で示されるか
- 手続中の就労、収入、住居を切れ目なく確保できるか
- 地方の人材確保を、移動制限ではなく待遇や生活環境の改善で支えられるか
- 「やむを得ない事情」の申立てが迅速に処理されるか
育成就労は、技能実習より転籍の道を広げます。しかし、同一業務区分や能力要件、1~2年の制限期間は残ります。2027年4月以降に見るべきなのは転籍申請の件数だけではありません。申請から就労再開までの日数、途中で断念した人の数、転籍前後の賃金や住居の変化が、新制度の実効性を測る具体的な指標になります。
