1日2時間短くても「正社員」 49人の利用実績から見えた時短とキャリアの壁
勤務時間を短くすると、正社員ではいられない——。そんな二者択一を崩すのが「短時間正社員」です。無期雇用を維持し、時間当たりの基本給や賞与・退職金の算定方法をフルタイム正社員とそろえながら、所定労働時間を短くします。
ITインフラ企業のアイエスエフネットは2026年7月、1日最大2時間短縮できる「ショート正社員制度」の利用者が49人に達したと公表しました。ただし、時間を短くするだけで両立支援が完成するわけではありません。次の焦点は、短時間勤務中も経験を積み、昇進や専門性の向上につなげられるかです。
- 短時間正社員は、単に勤務時間が短いパート社員という意味ではない
- 同社では49人が利用し、23人は客先常駐案件で働いている
- 育児向けの法定時短制度と、企業が設ける雇用区分は同じではない
- 賃金減少、仕事の割り振り、評価方法を利用前に確認する必要がある
49人が利用、客先常駐でも23人
今回の公表で重要なのは、時短勤務が難しいとされる客先常駐の仕事でも利用実績が示されたことです。
アイエスエフネットは、クラウド、ネットワーク、セキュリティ分野を扱い、約2300人のエンジニアが在籍する企業です。同社の制度では、正社員の雇用形態を維持したまま勤務時間を1日最大2時間短縮できます。
2026年7月2日付の同社発表によると、主な実績は次の通りです。
- 制度利用者は49人
- うち10人は2026年5月中に育児休業から復職
- 23人は客先常駐案件で制度を利用
- 利用者の45.5%は在宅勤務またはハイブリッド勤務
- 2025年の育児休業取得者の復職率は男女ともに100%
2025年5月に制度適用者へ行ったアンケートでは、満足度で約85%、周囲の理解度で約92%が5点満点中4以上を選んだとしています。いずれも企業自身が公表した数値であり、回答者数や比較対象は発表文に示されていませんが、制度が実際に使われていることを知る手掛かりにはなります。
短時間正社員は「パートの別名」ではない
違いを分ける軸は、勤務時間の長短だけでなく、契約と処遇です。
厚生労働省の定義では、短時間正社員は同種のフルタイム正社員より週の所定労働時間が短く、次の条件を満たす正規型社員です。
- 契約期間に定めがない
- 時間当たりの基本給が同種のフルタイム正社員と同等
- 賞与や退職金などの算定方法も同等
- 社会保険が適用される
月給や賞与の総額までフルタイムと同額になる、という意味ではありません。勤務時間に応じて総額が下がる設計はあり得ます。利用を検討するときは「正社員という名称」だけでなく、給与規程、賞与の計算、退職金、昇格要件を確認する必要があります。
また、短時間正社員は国が個人へ一律に割り当てる資格ではありません。会社が就業規則や給与規程を整え、対象者、利用期間、フルタイムとの転換手続きなどを決めます。厚生労働省の通知も、労働契約や就業規則、給与規程に位置付けを明確にするよう求めています。
ここがポイント: 「時短勤務ができるか」と「短時間正社員という雇用区分があるか」は別の質問です。人事担当者には、利用期間だけでなく、契約・処遇・復帰条件を分けて確認するのが近道です。
法律上の育児・介護支援とはどう違うのか
短時間正社員は企業の雇用制度であり、育児・介護休業法に基づく時短措置より対象を広く設計できます。
育児では会社が複数の選択肢を用意する
2025年10月から、3歳から小学校就学前の子を育てる労働者に対し、事業主は始業時刻の変更、テレワーク、養育両立支援休暇、短時間勤務など5項目から2つ以上を用意しなければなりません。労働者は会社が用意した制度から1つを選びます。短時間勤務が必ず全社で選べるとは限らない点に注意が必要です。
制度の対象や除外条件は厚生労働省の特設ページで確認できます。
2歳未満の子を育て、一定の要件を満たす雇用保険の被保険者には「育児時短就業給付金」もあります。時短後の賃金が開始前賃金の90%以下の場合、原則として時短中の賃金の10%が支給されます。給付には上限などがあり、短時間正社員になれば自動的に受け取れるわけではありません。詳しい支給要件と計算方法は厚生労働省のQ&Aで確認できます。
介護は「時短」以外が選ばれる場合もある
介護については、会社が短時間勤務、フレックスタイム、始業・終業時刻の変更、介護サービス費用の助成などから措置を選びます。新潟労働局の案内では、利用開始から3年以上の期間に2回以上利用できる制度として説明されています。
したがって、介護を理由に申し出ても、自社が用意している措置が短時間勤務とは限りません。介護休業、介護休暇、残業免除とも目的や使える期間が異なるため、家族の状態が変わる前に選択肢を確認しておくことが重要です。
本当の壁は「短く働けるか」より「何を任されるか」
制度の成否を分けるのは、勤務時間ではなく仕事と評価の設計です。
アイエスエフネットは、自社制度の課題として、時間的制約のある社員が運用・保守やヘルプデスクに配置されやすく、設計・構築など上流工程へ移る機会が限られやすい点を挙げました。客先常駐では稼働時間に比例する契約もあり、技能や生産性が高くても処遇へ反映しにくいとしています。
見落とされやすいのはここです。時短勤務を利用できても、担当業務が固定されれば、その期間の経験が次の昇格や転職で評価されにくくなります。両立支援を「離職しなかった」という数字だけで評価すると、キャリアの停滞を見逃します。
一方、残業できない社員の分を同僚が恒常的に引き受ければ、周囲の納得も続きません。必要なのは本人の効率化だけではなく、企業側による次の整備です。
- 一人に依存しない手順書と引き継ぎ
- 不在時に対応できる複数担当制
- 労働時間ではなく成果と技能を見る評価
- 短時間でも研修や難度の高い案件に参加できる設計
- フルタイムへ戻る場合と短時間を続ける場合の両方のキャリア経路
利用前に確認したい5つの質問
働く人にとっては、制度名より具体的な条件を聞くことが大切です。
人事担当者や上司との面談では、次の5点を確認すると生活費とキャリアへの影響を見通しやすくなります。
- 月給、賞与、退職金はどのように計算されるか
- 利用できる理由、期間、1日・週の勤務時間はどう決まるか
- フルタイムへの復帰は本人の申請で可能か
- 評価、昇格、研修、担当業務に制限があるか
- 急な休みや勤務終了後の連絡を誰が引き継ぐか
短時間正社員を扱った過去の関連報道がネット掲示板で共有された際には、柔軟な働き方への関心とともに「短い勤務時間で生活できる収入になるか」という趣旨の反応も見られました。ただし、これは一部の投稿であり、利用者全体の評価を示すものではありません。
制度が広がるかどうかの分岐点は、利用人数の増加だけでは測れません。短時間勤務を終えた後に、どれだけの人が希望する仕事や役割へ進めたか。企業が次に公表すべきなのは、復職率に加えて、利用者の昇格、職務変更、賃金推移といったキャリアの数字です。
