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電柱をなくす工事が8年がかりに 多摩市の事例で見えた無電柱化の「優先順位」

無電柱化工事が進む日本の生活道路と狭い歩道。

電柱をなくす工事が8年がかりに 多摩市の事例で見えた無電柱化の「優先順位」

東京都多摩市は、明神橋通りの無電柱化事業について、当初の2023~2027年度という予定を2031年度まで延長しました。地下にある水道・ガスなどの設備に合わせた工法の見直しと、物価高騰による予算の平準化が必要になったためです。

この事例が示すのは、無電柱化が進まない最大の理由は、単に工事費が高いからではないということです。狭い道路の地下で複数の設備を動かし、電力・通信事業者や沿道住民と調整しながら進めるため、費用、場所、時間を同時に確保できる道路が限られます。

この記事の要点は次の通りです。

  • 多摩市の対象区間では、地下埋設物への対応と物価高騰により事業期間が4年延びた
  • 一般的な電線共同溝は、道路管理者の負担だけで1km当たり2.3億円とされた例がある
  • 約400mの整備にも、設計から電柱撤去まで約7年かかるとされる
  • 防災、歩行者の安全、景観のすべてを一度に追わず、緊急輸送道路などを優先する流れが強まっている
目次

多摩市で何が起きたのか

短い区間でも、地下の状況が分かるまで工期を確定しにくいのが無電柱化の現実です。

多摩市が事業を進めているのは、聖蹟桜ヶ丘駅に近い明神橋通りの一部です。歩道の幅は1.5メートル前後。歩道上の電柱を撤去すれば、ベビーカーや車いす、歩行者が通れる空間を広げられます。

市が掲げる目的は三つあります。

  • 地震や台風で電柱が倒れ、道路をふさぐ事態を防ぐ
  • 狭い歩道の通行空間を広げる
  • すでに無電柱化された周辺道路と連続した景観をつくる

ところが、道路の下にはすでに水道、下水道、ガスなどが通っています。新たに電力線や通信線を収める空間がなければ、既存設備の移設や工法の変更が必要です。

多摩市は2023年度に支障となるライフライン設備の移設を始め、2024年度、2025年度に電線共同溝本体の工事を進めました。その過程で地下埋設物への対応が必要になり、物価高騰も重なったため、予算を年度ごとに分散。完成予定は2027年度から2031年度へ延びました。

「電線を埋めるだけ」と考えると4年の延長は長く見えます。しかし実際には、現在の電気や通信を止めずに新しい経路を造り、各建物への引き込みを切り替え、最後に電柱を撤去する連続工事です。

1km当たり2.3億円、400mでも約7年

無電柱化の高コストは、管を埋める材料費より、既存インフラとの調整や段階的な施工に左右されます。

小金井市が2026年6月に改定した無電柱化推進計画では、電線共同溝方式の道路管理者負担について、2014年度時点の1km当たり3.5億円から、2020年度には2.3億円まで縮減したと整理しています。ただし、これは全国一律の価格ではなく、過去の公表値です。狭い道や地下設備が混み合う場所では、さらに費用が増える可能性があります。

同計画が示す標準的な工程では、約400mの整備に約7年を見込みます。

  1. 設計と法定手続き
  2. ガス管や水道管などの移設
  3. 電線共同溝本体の工事
  4. 電力線・通信線の敷設と各戸への接続
  5. 既存の電線・電柱の撤去
  6. 歩道と舗装の復旧

道路管理者だけでは完結しません。国道なら国、都道府県道なら都道府県、市町村道なら自治体が道路側の主体となり、電力会社や通信会社が電線、変圧器などを整備します。一般的な電線共同溝方式では、道路管理者と電線管理者がそれぞれ担当設備の費用を負担します。

さらに、狭い道路では変圧器などの地上機器を置く場所も問題になります。歩道に置けば、電柱を撤去しても通行空間が狭くなりかねません。公園や学校、民有地の一部を使う場合は、土地の管理者や所有者との調整が加わります。

ここがポイント: 無電柱化の速度を決めるのは工事能力だけではありません。道路の地下と地上に空間があるか、複数の管理者が同じ時期に動けるか、長期の予算を確保できるかがそろって初めて進みます。

防災を優先しても、全国一律には進められない

限られた予算を広く薄く配るより、災害時に救急・救援ルートとなる道路をつなげて完成させる方向へ、国の政策は軸足を移しています。

国土交通省が2026年6月に決定した第3次無電柱化推進計画は、2030年度までの5年間で約1,000kmの整備を実現し、新たに約4,000kmで計画を策定する方針です。

背景には、着手区間を増やしても、完成が追いつかなかった反省があります。前計画では計画協議や工事に入った区間が増えた一方、人員と予算が分散し、まとまった効果を得にくい状況が国の検討資料で指摘されました。

防災面では、2024年の能登半島地震で約3,480本の電柱が倒壊・損壊し、道路啓開の妨げとなりました。一方、無電柱化を実施した8市町の約20kmでは、発災直後から緊急車両が通行できたと国の資料は説明しています。

このため、今後は次のような道路の優先度が高くなります。

  • 高速道路のインターチェンジと県庁、病院など主要拠点を結ぶ道路
  • 市街地の第一次緊急輸送道路
  • 避難所へのアクセス道路や避難路
  • 電柱を避ける歩行者が車道にはみ出す通学路や生活道路

ここで見落とせないのが、防災と景観では選ばれる道路が必ずしも同じではないことです。観光地の街並みを整える区間と、災害時に救援車両が走る区間が競合すれば、現在の国の計画では後者が優先されやすくなります。

ただし、生活道路の安全を後回しにしてよいわけではありません。小金井市の計画によると、東京都内の道路延長の約9割を占める区市町村道の無電柱化率は、2014年度時点で約2%でした。国道・都道の約27%との差は大きく、住民が日常的に使う狭い道路ほど整備が難しいという逆転が起きています。

賛否が分かれるのは「目的」より負担の見え方

無電柱化への反対意見は、景観や防災の価値そのものより、費用負担と維持管理が見えにくい点に集中しています。

東京都が宅地開発での無電柱化をめぐって実施した意見募集には、22通、計41件の意見が寄せられました。公表された要旨には、狭い市道をベビーカーで通る際の危険を理由に、私道や市町村道まで対象を広げてほしいという声がありました。

その一方で、次のような懸念も示されています。

  • 地中化の費用が住宅価格や電気料金へどう反映されるのか
  • 障害が起きたとき、目視しやすい架空線より修理に時間がかからないか
  • 電柱に設置していた街路灯、防犯カメラ、通信設備をどこへ移すのか
  • 開発後の設備を誰が所有し、維持管理するのか

これらは単純な賛成・反対では片付けられません。道路の閉塞防止には大きな効果が期待できても、街路灯や防犯設備の代替場所は別途確保する必要があります。宅地購入者には、販売価格に含まれる負担、補助金の適用範囲、完成後の管理主体を契約前に説明することが重要です。

自分の地域では、どこを見ればよいか

住民が確認すべきなのは「市全体の無電柱化率」より、自宅周辺の道路がどの計画で、どの目的に位置付けられているかです。

自治体の無電柱化推進計画や地域防災計画を見るときは、次の順で確認すると実態をつかみやすくなります。

  • その道路は緊急輸送道路、避難路、通学路のいずれか
  • 「検討路線」「事業中」「完成」のどの段階か
  • 電柱撤去までを含む完成時期が示されているか
  • 国や都道府県の補助制度を利用できるか
  • 上下水道工事、道路拡幅、再開発と同時施工する予定があるか

無電柱化は、すべての道路で同時に進められる事業ではありません。だからこそ、自治体には「景観を良くする」という説明だけでなく、どの道路を誰のために先に整備するのかを示す責任があります。

多摩市の明神橋通りで次に見るべきなのは、2031年度という予定だけではありません。工法見直し後の工程が安定するか、狭い歩道の改善まで確実に完了するか、そして周辺の無電柱化済み道路とつながって防災・歩行・景観の効果を一続きにできるかです。

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