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病院の送迎車が「誰でも乗れるバス」に 新潟・村上で始まった地域交通の組み替え

新潟の集落と病院を結ぶ小型の地域バス。

病院の送迎車が「誰でも乗れるバス」に 新潟・村上で始まった地域交通の組み替え

病院の送迎車は、条件を整えれば地域の公共交通になり得ます。ただし、病院が善意だけで住民を乗せる仕組みでは長続きしません。

新潟県村上市の山北地域では、山北徳新会病院の外来送迎車を活用し、利用制限のない有料の「徳洲会バス」を運行しています。ポイントは、病院の車両、地域側の費用負担、法定協議、運行事業者の責任を一つの仕組みに組み直したことです。

  • 病院利用者に限らず、誰でも乗車できる
  • 月曜から土曜まで、1日4便を運行する
  • 運賃は大人100~200円、小学生と障がい者は半額
  • 既存の路線バスと病院送迎の重複を解消する
目次

送迎車を地域の路線に組み込んだ

今回の取り組みは、無料送迎の空席開放ではなく、既存の地域路線を病院車両で引き継ぐ再編です。

村上市山北地域の「雷・勝木線」は、2025年11月まで新潟交通観光バスが運行していました。一方、ほぼ同じ区間では山北徳新会病院も外来患者向けの送迎車を走らせていました。

地域内に似た経路の車が2台ある一方、どちらも利用者や用途が限られる。そこで山北地域交通運営協議会、村上市、交通事業者、病院側が協議し、2025年12月から一つの路線へまとめました。

現在の運行内容は次の通りです。

  • 区間:雷向村―山北徳新会病院前、22.5キロ
  • 停留所:21か所
  • 運行日:月曜~土曜(日曜、祝日、年末年始は運休)
  • 便数:行き2便、帰り2便
  • 車両:病院が保有する10人乗り程度の小型車両
  • 利用者:制限なし

従来の路線バスは1日7便でしたが、新路線は4便に減りました。その一方、病院送迎は水曜と土曜の1往復だけだったため、送迎利用者にとっては利用できる曜日と便が増えています。

小型化によって集落内へ入りやすくなり、雷向村、大谷沢、府屋浜町の3か所に停留所を新設。別の3か所でも停留所を集落内へ移しました。単に車両を置き換えたのではなく、住民が歩く距離を短くする調整も加えられています。

「病院の無料バス」と何が違うのか

誰でも利用できる交通にするには、運行責任とお金の流れを明確にする必要があります。

この路線は、病院が独自に行う患者送迎ではありません。山北地域交通運営協議会が運営を担い、一般社団法人徳洲会へ運行を委託する形です。道路運送法上は「交通空白地有償運送」として協議されました。

役割を分けると、仕組みが見えやすくなります。

地域と自治体

山北地域交通運営協議会が運行経費を委託料として負担し、運賃収入を差し引いて精算します。村上市地域公共交通活性化協議会では、路線、運賃、実施主体などを協議しました。

病院側

山北徳新会病院が保有する外来送迎車を地域交通に活用します。実際の有償運送は、医療法人ではなく一般社団法人徳洲会が担当します。

従来、無料送迎を利用していた「健康友の会」の会員には、病院側が回数券を購入して配布する仕組みも示されました。利用者だけに急な負担増が及ばないようにする対応です。

利用者

予約や病院の受診資格は必要ありません。同じ地区内なら100円、隣接地区までなら200円で利用できます。回数券や定期券も用意され、地域内の別のバスと共通で使える回数券もあります。

ここがポイント: 車両は病院のものでも、運行は地域公共交通のルールに載せる。これが「患者だけの送迎」を「誰でも使える地域の足」に変える境目です。

最大の利点は「空席」より重複の解消

この再編の核心は、余った座席を埋めることではなく、限られた車両と運転手を二重に走らせないことです。

村上市が示した試算では、山北地域の2路線にかかる2025年12月から2026年3月までの支出は、再編前の約1,200万円から約1,175万円へ減る見込みでした。削減額は約32万9,000円で、年間換算では約100万円とされています。

金額だけを見れば、劇的な節減ではありません。それでも意味があるのは、病院送迎と路線バスの重複を整理しながら、次の改善を同時に進めたためです。

  • 小型車で集落内へ乗り入れる
  • 病院送迎より運行日を増やす
  • 別路線を増便し、JRや村上市街方面への接続を改善する
  • 回送車両も営業運行に活用する

国も、病院、学校、福祉施設などが持つ送迎車両を含めた「地域輸送資源のフル活用」を進めています。人口減少で運転手が不足する一方、病院や学校の集約によって移動距離が長くなる地域では、用途ごとに別々の車を用意し続けることが難しくなっているためです。

利便性が上がった人と、下がった人を分けて見る

送迎車の活用は万能ではなく、路線再編による不利益も確認しなければなりません。

今回、雷・勝木線は7便から4便へ減便され、運行区間も山北徳新会病院前までとなりました。従来の終点だった下大蔵までは運行しません。病院へ通う人には便利になっても、別の時間帯や区間を利用していた人には選択肢が減る可能性があります。

また、10人乗り程度の車両は狭い集落へ入りやすい反面、利用が集中した際の定員には限りがあります。通院時間に合わせたダイヤが、買い物、通勤、鉄道への乗り継ぎにも十分かは、実際の利用状況を見なければ判断できません。

今後、確認すべき指標は明確です。

  • 曜日・便別の乗車人数と乗り残しの有無
  • 通院以外の利用がどれだけ増えたか
  • 減便や区間短縮で移動が難しくなった住民がいないか
  • 車両整備や運転手確保を含む実際の年間経費
  • 病院側の事情が変わった場合にも運行を続けられるか

公表された協議会議事録では、委員から強い反対は出ず、再編案は異議なく承認されました。一方で、市側も運行後に課題を検証する必要があるとの認識を示しています。新しい仕組みへの評価は、出発式の時点ではなく、減便の影響や利用実績が蓄積してから定まります。

他地域で再現するなら必要な4条件

病院送迎を地域交通へ転用する際は、車両の有無だけで判断できません。村上市の事例からは、少なくとも次の条件が見えてきます。

  1. 既存路線との重複があること
    新たな車を増やすのではなく、すでに走っている送迎と公共交通を整理できるかが出発点です。

  2. 自治体や地域協議会が調整役になること
    病院、交通事業者、住民の利害は一致するとは限りません。路線や運賃、責任分担を話し合う場が欠かせません。

  3. 運行費を誰が負担するか決めること
    利用者運賃だけで維持できるとは限りません。委託料、運賃収入、病院側の負担を分けて示す必要があります。

  4. 医療目的以外の移動も評価すること
    通院できるだけでなく、駅への接続、買い物、行政手続きなど、住民の日常生活に使えるかを見るべきです。

病院送迎は公共交通になり得ます。ただし、成否を決めるのは「空いている車があるか」ではありません。減便で困る人を把握し、費用と責任を公開し、病院の事情が変わっても続けられる設計にできるかが次の焦点です。

自分の地域で同様の議論が始まったら、まず確認したいのは運行本数、対象者、運賃、委託先、代替される既存路線の5点です。車両の有効活用という説明だけでなく、誰の移動が増え、誰の移動が減るのかまで比べる必要があります。

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