カリフォルニアで中古車を買っても3日以内なら返せる——10月施行「CARS法」が変える購入後の常識|2026年6月17日版
アメリカ・カリフォルニア州で、2026年10月1日から中古車に「3日間の返品権」が付く。価格5万ドル以下の中古車なら、買った人は理由を説明しなくても3日以内に契約を解除し、車を返して返金を受けられる。
正式名称は「Combating Auto Retail Scams Act(CARS法/州法SB766)」。日本ではほとんど報じられていないが、店舗での自動車購入という「返品が効かないのが当たり前」だった買い物に、まとまった撤回期間を持ち込む点で珍しい。
ただし無条件ではない。走行距離の上限、再入庫手数料、車の状態など、細かい条件がいくつもぶら下がっている。ここでは「何が変わるのか」「誰に効いて、誰には効かないのか」を順に見ていく。
先に要点だけ
- 対象:カリフォルニア州のディーラーが売る、価格5万ドル以下の中古車
- 返品できる期間:購入から3日(3日目の営業終了時刻まで)、理由は問わない
- 走行距離:返品時点で400マイル未満であること。250マイルを超えた分は1マイル1ドル(上限150ドル)
- 手数料:再入庫手数料は車両価格の1.5%(最低200ドル・最高600ドル)
- 広告価格:ディーラーは諸費用込みの「総額」を表示し、その値段で買えるようにする
- 施行日:2026年10月1日
「3日間の返品権」の中身
これまでアメリカでも、新車・中古車を問わず「サインしたら基本は返せない」のが原則だった。テレビでよく言われる「クーリングオフは車には使えない」という注意喚起は、まさにこの状態を指している。CARS法はそこに穴を開ける。
返品が認められる条件を整理すると、次のようになる。
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 対象車 | 価格5万ドル以下の中古車 |
| 期限 | 購入日から3日目のディーラー営業終了時刻まで |
| 理由 | 不要(「気が変わった」でも可) |
| 走行距離 | 返却時に400マイル未満。250マイル超過分は1マイル1ドル、追加で最大150ドル |
| 車の状態 | 通常の使用による消耗を除き、購入時と同じ状態であること |
| 再入庫手数料 | 車両価格の1.5%(最低200ドル・最高600ドル)。頭金から先に差し引かれる |
つまり、月曜に買った車は木曜の営業終了まで返せる。手数料は数百ドル単位で取られるが、何十万円もする買い物を「3日試して合わなければ戻せる」という発想自体が、これまでの店頭販売にはなかった。
ここがポイント:CARS法は「不良品だから返す」制度ではなく、「理由がなくても3日以内なら撤回できる」制度。日本の店頭での自動車購入にこうした撤回権はない。
返品権だけではない——「総額表示」と「無意味なオプション」の禁止
CARS法の本体は、実は返品権よりも価格表示と販売手法のほうにある。州議会の説明でも、中心に置かれているのは次の2つだ。
1. 広告は「総額」で出す
ディーラーは、牽引フックやルーフラックといった取り付け済みオプションを含めた「総額」を広告・表示しなければならない(税金や法定費用は別)。しかも、客はその表示価格で実際に買えることが求められる。来店してから諸費用が積み上がる、という展開を封じる狙いだ。売れた車は48時間以内にサイトから消す義務もある。
2. 役に立たないオプションは売れない
買い手に利益がないオプションの販売も禁じられる。具体例として挙がっているのが、
- 純度95%未満の「窒素充填」
- 補償内容が空っぽのGAP保険(ローン残債と車両価値の差額をカバーする保険)
- 既存の不具合をカバーしないサービス契約
- 電気自動車向けの「オイル交換」パック
- 塗装保証を無効にしてしまう表面コーティング
いずれも「契約書には載るが、客は得をしない」と問題視されてきた上乗せ商品だ。州の試算では、こうした見直しでカリフォルニアの購入者は年間で約2億3,400万ドルの節約と、850万時間分の手間削減につながるとされる。返品権は派手な部分だが、効き目が大きいのは価格の透明化のほうかもしれない。
なぜ今これが通ったのか
背景には、自動車販売の不透明な上乗せ商法への不満の蓄積がある。法案を主導したのはベン・アレン州上院議員(民主・サンタモニカ)で、ロブ・ボンタ州司法長官や連邦取引委員会(FTC)のスローター委員、消費者団体、複数大学の経済学者が支持に回った。
注目すべきは反対派の動きだ。ディーラーや自動車ローン業者の業界団体は当初反発したものの、修正を重ねた末に最終的には反対を取り下げ、超党派で成立した。消費者保護の強化に業界が折れた、という構図である。
一方で適用除外も明確に線引きされている。
- 卸売(ディーラー間)取引
- 複数台をまとめて買うフリート販売
- 年5台以上を買う事業用購入者
- 未登録車の取引
要するに、守られるのは「ふつうの個人が1台買う」場面に絞られている。
日本の読者にとっての見どころ
直接の規制対象はカリフォルニア州だが、ここから読み取れる論点は日本の買い物にも引きつけられる。
- 店頭購入に撤回権はあるか:日本のクーリングオフ制度は訪問販売や電話勧誘などが対象で、自分からディーラーに出向いて買う自動車は対象外。「カリフォルニアでは3日返せる」と聞いて驚く感覚は、その差から来ている。
- 総額表示の発想:来店後に諸費用が積み上がる不透明さは、日本の中古車購入でもしばしば指摘される。「広告価格で必ず買える」というCARS法の原則は、価格表示を考えるうえでの一つの物差しになる。
- 現地で車を買う人:カリフォルニアに駐在・留学・移住して中古車を買う日本人にとっては、10月以降は3日間の返品権と総額表示が実際に使える権利になる。契約書の「3-Day Right to Cancel(3日間の取消権)」表示の有無を確認する場面が出てくる。
今後の注目点
- 10月1日の運用開始後、返品がどれだけ使われるか。手数料と400マイルの壁があるため、「気軽に返す」とまではいかない可能性がある。
- 他州への波及。連邦レベルではFTCが似た趣旨のルールを進めようとしてきた経緯があり、州単位の動きが先行するのか注目される。
- 上乗せオプションの線引き。「買い手に利益がない」かどうかの判断が、現場でどこまで明確に運用されるか。
買った後の3日間に何ができるか——その一点だけでも、車という大きな買い物の力関係は少し買い手側に動く。施行は10月。条件の細かさをどう使いこなすかが、最初の見どころになる。
参照リンク
- New California law gives used car buyers a 3-day ‘cooling off’ period (CBS8)
- CARS Act (SB-766): Major Changes Coming October 1, 2026 (California Dealer Academy)
- California Legislature Sends Bill to Make New and Used Cars More Affordable to Governor Newsom (NCLC)
- New Protections for Used Car Buyers – Introducing the California Auto Retail Scams Act (Kinaly Law)
- New ‘CARS Act’ requires 3-day cooling off period for used car returns (KSBY)
