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ウェールズはなぜ「子どものケアで営利を認めない」のか 4月開始の新制度で見える本当の勝負どころ

ウェールズはなぜ「子どものケアで営利を認めない」のか 4月開始の新制度で見える本当の勝負どころ

ウェールズでは2026年4月1日から、子ども向けの新しい養護施設、里親サービス、保安宿泊サービスを営利企業が新規登録できなくなりました。 英国内でここまで踏み込んだのはウェールズが初めてです。

狙いはシンプルです。行政が払うお金を配当や利益ではなく、子どもの住まい、支援、人材育成に戻すこと。ただし、制度の成否は理念よりも、その先の受け皿を本当に増やせるかにかかっています。

  • 4月1日から新規の営利事業者は参入不可
  • 既存の営利事業者も段階的に拡張が制限される
  • 背景には、地元から離れた配置が増えている現実がある
  • 次の焦点は、自治体が十分な非営利の受け皿を作れるかどうか

ここがポイント: ウェールズの改革は「利益をなくす」だけでは終わりません。子どもを地元の近くで受け止める非営利の供給網を、自治体と監督当局が作り切れるかが本番です。

目次

何が変わったのか

今回の制度変更は、2025年成立の Health and Social Care (Wales) Act 2025 に基づくものです。対象になるのは、子ども向けのホーム、里親サービス、保安宿泊サービスです。

まず動いたのは入口の規制です。4月1日以降は、新たに参入する事業者は非営利形態でなければ登録できません。既存の営利事業者も、同日から新しいサービスや場所を追加しにくくなり、2027年4月からは既存ホームの定員増や新たな里親承認にも制限がかかります。さらに2030年4月からは、営利事業者への新規配置が原則として大きく絞られる予定です。

制度の設計が段階的なのは、急に切り替えて子どもの生活を不安定にしないためです。ウェールズ政府も、移行は「care of individual children」を乱さない形で進めると説明しています。

4月以降の主な段階

  • 2026年4月1日: 新規の営利事業者は登録不可
  • 2026年4月1日: 既存の営利事業者は新サービスや新しい場所の追加が制限
  • 2027年4月1日: 既存の営利ホームの増床や、新たな里親承認がさらに制限
  • 2030年4月以降: 営利事業者への新規配置が原則制限され、例外には政府関与が必要

なぜここまで踏み込むのか

ウェールズ政府の説明は明快です。公費で支える子どものケアから、配当や利益が外に流れる構造を止めたいということです。

ただ、この話は倫理論だけではありません。実務上の圧力も大きい。ウェールズ政府統計によると、2024年3月31日時点で保護下にある子どもは7,198人でした。このうち、元の自治体の中で暮らせていたのは65.6%にとどまり、26.9%は自治体外のウェールズ内、7.5%はウェールズ外に配置されていました。

これは、地元で必要な受け皿を確保できていない子どもが少なくないことを意味します。制度改革の狙いは、単に「営利か非営利か」を切り分けることではなく、子どもを家族、学校、支援者から遠ざけない配置を増やすことにあります。

数字が示す現実

  • 保護下にある子ども: 7,198人
  • 里親配置: 67.7%
  • 児童ホームや保安施設など: 12.3%
  • 元の自治体内での配置: 65.6%
  • ウェールズ外への配置: 7.5%

数字だけ見ると小幅な差に見えても、配置先が自治体外や国外にずれると、通学、家族面会、担当者との連携に直接ひびきます。そこがこの改革の背景です。

それでも残る最大の不安は「足りるのか」

ここがいちばん重要です。制度の理念に反対しにくくても、非営利の受け皿が足りなければ、現場は回りません。

2026年1月に公表された政府の協議結果まとめでは、回答者の多くが移行そのものよりも、運営の混乱や供給不足を心配していました。小規模事業者の事務負担、移行時のスケジュール、規制の重複、そして十分な定員をどう確保するか。論点はかなり実務的です。

ウェールズ政府もその点を認めており、段階的な移行、監督当局 Care Inspectorate Wales による支援、非営利化を希望する事業者向けの移行支援を打ち出しています。3月10日の書面声明では、子どものケア改革向けに2022年から2025年に6900万ポンド、2025年から2028年に7500万ポンドの歳出支援を示しました。

今、見ておくべきリスク

  • 営利事業者の拡張が止まる一方で、非営利側の新設が追いつくか
  • 小規模事業者が非営利化の事務負担に耐えられるか
  • 定員不足で、かえって遠方配置が増えないか
  • 英国の他地域からの配置をどう扱うか

次の争点は自治体の「供給計画」になる

4月の制度開始で終わりではありません。ウェールズ政府は4月7日まで、各自治体に年次の sufficiency plan を作らせる新ルールについて意見募集を行っていました。

この計画では、自治体が自分たちの地域内、または地域の近くで、どれだけ子どものニーズに合う住まいとケアを確保できるかを示すことになります。初回の草案提出は2026年12月まで、公開は2027年からの予定です。

ここが重要なのは、改革の成否が理念ではなく、自治体ごとの調達力と整備力で見えるようになるからです。どの地域に何床必要か。里親をどう増やすか。兄弟を一緒に受け入れられるか。複雑な支援が必要な子ども向けの場所をどう作るか。これらを曖昧にしたままでは、制度は回りません。

sufficiency planで問われること

  • 地元または地元近くでの配置をどこまで増やせるか
  • 年齢や支援内容ごとの不足をどう埋めるか
  • 既存の民間依存をどこまで減らせるか
  • 受け皿整備の遅れが出たときの代替策を持てるか

日本から見ると何が面白いのか

このニュースは派手ではありません。ですが、子どもの福祉を「市場にどこまで委ねるか」という、かなり重い問いを正面から扱っています。

日本でも、児童養護、里親支援、障害福祉、高齢者ケアで、民間事業者への依存と供給不足は常にセットで議論されます。ウェールズの事例が示しているのは、営利を制限するだけでは足りず、代わりに誰が担い、どこに施設や人材を置くのかまで政府が責任を負わないと制度は成立しないということです。

今後の注目点は次の3つです。

  • 2026年末に出てくる自治体の供給計画に、具体的な定員確保策が入るか
  • 2027年の追加規制までに、非営利事業者や自治体直営の受け皿が増えるか
  • 遠方配置を本当に減らせるか

ウェールズは、理念としてはかなり鮮明です。次に問われるのは、その理念を子どもが実際に暮らす場所の数と質に変えられるかどうかです。

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