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英国で新築フラットの「リースホールド販売禁止」案が前進 コモンホールド化で何が変わるのか

英国で新築フラットの「リースホールド販売禁止」案が前進 コモンホールド化で何が変わるのか

英国政府は2026年1月27日、イングランドとウェールズで新築フラットを原則としてリースホールドで売れなくする方針を打ち出し、コモンホールドを標準形にするための協議を始めた。結論から言えば、今後の購入者にとっては「期限つきの権利を買う」形から、「建物運営に投票権を持つ恒久的な所有」に寄せる改革だ。

ただし、これはまだ施行ではない。協議の締切は2026年4月24日で、開始時期も未確定。しかも既存のリースホールド住宅が一斉に切り替わるわけではなく、まずは新築や新規販売分から市場の入口を変えにいく話だ。

  • 要点は、新築フラットの売り方の標準を変えることにある
  • 買い手は第三者のフリーホルダーに縛られにくくなり、建物管理に直接関与しやすくなる
  • 既存のリースホールド物件は原則そのままで、すぐ全面移行する制度ではない
  • 焦点は、開始時期、例外扱い、建設途中案件の経過措置がどう設計されるかだ
目次

まず何が動いたのか

英国住宅・地域・地方自治省は、ドラフト法案と協議文書を公表し、新築フラットの多くをコモンホールドで売る仕組みへ移す方針を示した。対象は新築の集合住宅だけではない。政府案では、オフィスから住宅への転用や戸建てのフラット化など、既存建物から新たに売り出される住戸も広く射程に入る。

ここがポイント: 英国の今回の動きは「既存の不満を少し手当てする」程度ではない。新しく市場に出るフラットについて、そもそもの所有形態を変えようとしている。

英国で一般的だったリースホールドは、たとえば99年などの長期賃借権を買う形だ。住戸の買い手はその部屋を使えるが、土地や建物全体の支配はフリーホルダー側に残りやすい。これに対しコモンホールドでは、各区分所有者が住戸を恒久的に持ち、建物全体の管理にも参加する。

政府はこの仕組みを、フランスの copropriete、ドイツの WEG、北米の condominium、豪州やNZの strata title に近いものとして説明している。つまり、英国がむしろ国際的には少数派の形を長く続けてきた、という位置づけだ。

買う人にとって何が変わるのか

1. 「期限つき所有」から離れる

政府文書によれば、コモンホールドでは各所有者が住戸を期限なしで所有し、建物管理や費用負担のルールにも関与できる。ここが一番大きい。

リースホールドでは、権利の残存期間が短くなるほど資産価値や売買のしやすさが問題になりやすい。延長費用や契約条件の変更も、フリーホルダーとの関係に左右されやすかった。コモンホールド化の狙いは、この前提自体を変えることにある。

2. 管理費や修繕の決め方に参加しやすくなる

政府は、コモンホールドを「第三者の地主ではなく、住んでいる人が建物を運営する」モデルとして打ち出している。住民側にとって重要なのは、請求書が来てから争うだけでなく、予算や管理の決定プロセスに最初から入れる点だ。

もちろん、参加できることは負担も増えるということでもある。修繕積立、緊急工事、理事の選任など、マンション管理に近い実務が発生する。今回の改革は、英国のフラット購入者に「権利を増やす代わりに、共同管理の責任も引き受ける」方向を求めるものでもある。

3. 既存の物件はすぐには変わらない

ここは誤解しやすいが、政府案でも既存のリースホールド・フラットはそのまま残る。すでにある物件の新規・更新リースまで一律に禁止する考えではない。

そのため、今回の改革でまず変わるのは「これから供給される物件のルール」だ。中古市場や既存の居住者の悩みが一気に消えるわけではない。

なぜいま、ここまで踏み込むのか

理由は単純で、英国のこれまでの仕組みが長く不評だったからだ。政府はドラフト法案の説明で、イングランドとウェールズには約500万件の既存リースホールド物件があるとしている。

一方で、代替策として2002年に導入されたコモンホールドは広がらなかった。法務委員会によると、制度開始後にできたコモンホールドは20件未満にとどまる。制度が存在しても、市場の標準になれなければ、買い手の立場は変わらない。

政府の白書は、広がらなかった理由として次の点を挙げている。

  • 2002年の制度が混合用途や大規模開発に十分対応できなかった
  • 従来のリースホールドが業界で定着し、開発側に切り替える誘因が弱かった
  • グラウンドレントのように、リースホールド側には副次的な収益源があった

つまり今回の改革は、「コモンホールドを選べるようにする」だけでは足りず、新築ではそちらを原則にするところまで進まないと市場は動かない、という判断だ。

それでも残る論点

ここから先は、制度の方向性より実装が難しい。

例外はどこまで認めるのか

政府案では、Build to Rent やソーシャル住宅のように賃貸専用で運営される建物は、原則として禁止の対象外だ。所有者が1者で、個別住戸を長期リースで売らないなら、コモンホールドに切り替える意味が薄いからだ。

ただ、建物の一部を後から分譲に回す場合や、複数の用途が混ざる開発では線引きが難しい。例外を増やしすぎれば骨抜きになり、少なすぎれば供給現場が混乱する。

いつ始めるのかがまだ決まっていない

RICSは3月20日の解説で、政府は禁止の開始時期をまだ決めていないと整理している。法案の関連条文をいつ施行するかが固まっていないためだ。

この不確定さは、購入希望者よりもまずデベロッパーや融資側に効く。売り方、管理規約、販売資料、建設中案件の処理をどの時点で切り替えるのかが読めないからだ。

建設途中の案件をどう扱うのか

政府は、禁止開始時点でまだ工事中でも、すでに一部をリースホールドで売っている自立した棟については、そのまま販売継続を認める経過措置を検討している。ここを乱暴に切れば、供給の遅れや契約混乱が起きる。

逆に経過措置が長すぎれば、改革の効果が市場に出るまで時間がかかる。政策としてはここがかなり重要だ。

既存建物の移行は依然として重い

今回の柱は新築だが、既存の建物をどうするかも残る。RICSは、既存のリースホールド建物をコモンホールドへ転換しやすくする案が出ている一方で、フリーホルダーや貸し手の同意、混在建物の管理など、実務上の難しさはなお大きいと見ている。

新築の入口を変える改革と、既存ストックをどう救うかは、別の難題だということだ。

日本から見ると何が面白いのか

この話は英国特有の不動産制度に見えるが、論点はかなり普遍的だ。マンションの所有と管理を誰が握るのか、費用負担をどこまで住民自治で決めるのか、建物の高経年化にどう備えるのか。どれも日本の区分所有や管理組合の議論と地続きだ。

違うのは、英国ではその入口に「第三者のフリーホルダー」が強く残っていた点で、今回はそこを制度ごと薄くしようとしている。住民自治を強めるのか、それともプロの運営主体を残すのか。英国はかなり大きく前者に舵を切ろうとしている。

今後の注目点

  • 協議が閉じる2026年4月24日までに、例外と経過措置にどんな意見が集まるか
  • 法案の事前審査を経て、施行開始日がいつ示されるか
  • 新築偏重の改革で終わらず、既存リースホールド物件の移行策がどこまで具体化するか

英国の今回の動きは、フラット購入者を「契約の受け手」から「建物運営の当事者」に寄せる試みだ。成否を分けるのはスローガンではなく、例外処理と移行設計の細部になる。

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