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ロードアイランド州の住宅税優遇案、なぜ「入居前の税金」が家賃問題になるのか

ロードアイランド州の住宅税優遇案、なぜ「入居前の税金」が家賃問題になるのか

米ロードアイランド州の州都プロビデンスで、低・中所得者向け住宅の建設中にかかる固定資産税を軽くする案が出ている。ポイントは、完成して家賃収入が入る前の段階で、開発者に通常の税負担がのしかかることだ。

市議会側は、この負担が建設費に上乗せされ、結果として住宅供給を遅らせると見ている。家賃規制だけでなく、「建てる途中のコスト」をどう下げるかが、プロビデンスの住宅政策の焦点になってきた。

  • プロビデンス市議会幹部は2026年4月1日、 affordable housing 向けの新しい税安定化案「Providence BUILD Act」を発表した。
  • 対象は、州法上の低・中所得者向け制限付き住宅を一定割合以上含む開発など。
  • 大規模改修では家賃収入の8%に相当する税負担、新築では入居可能と認定されるまで課税を猶予する仕組みが検討されている。
  • 同市では家賃上昇を年4%に抑える別の家賃安定化条例も進んでおり、供給促進策と賃借人保護策が同時に争点化している。
目次

何が提案されているのか

プロビデンス市議会のレイチェル・ミラー議長とメアリー・ケイ・ハリス副多数派リーダーは、2026年4月1日に「Providence BUILD Act」を発表した。現地報道の Rhode Island Current によると、同案は低・中所得者向け住宅の開発について、建設から入居までの空白期間に税安定化協定を使う内容だ。

プロビデンスでは、低所得者向け住宅に対して、入居後は家賃収入を基準にした特別な課税方式がある。報道では、いわゆる「8 Law」により、自治体が総予定家賃収入の8%に相当する形で課税できると説明されている。

ただし、問題はその前だ。入居者が入り、家賃収入が発生するまでの建設期間中は、通常の固定資産税がかかる。市議会側はここを変えようとしている。

案の骨格は次の通りだ。

  • 新築の対象プロジェクトは、住戸が入居可能と認定されるまで税請求を受けない。
  • 大規模改修を伴う対象プロジェクトは、2年間の協定で家賃収入の8%相当の課税にする。
  • 対象は、州の定義に沿った低・中所得者向け制限付き住宅をつくる開発。
  • 少なくとも住戸の半分がその条件を満たす必要がある。
  • 大規模改修では、少なくとも25万ドルの費用が発生する案件が対象になる。
  • 住宅と商業の複合開発も、6戸以上の住戸をつくり、その他の条件を満たせば対象になり得る。

単なる減税案ではない。市が狙っているのは、建設途中で資金が詰まる部分をならし、低所得者向け住宅の計画を止まりにくくすることだ。

なぜ「完成前の税金」が争点になるのか

住宅政策では、家賃、補助金、 zoning、建築許可が目立ちやすい。だが、プロビデンスの今回の案が見ているのは、もっと地味な会計上の谷間だ。

建物をつくっている間、開発者はまだ家賃を受け取れない。一方で、土地や建物に関する税金、金利、資材費、人件費は先に発生する。完成や検査が遅れれば、その期間は伸びる。

Rhode Island Current は、非営利団体 Crossroads Rhode Island の Summer Street Apartments 事業が、2025年10月の開業前の建設段階で50万ドルの税負担を抱えたと報じている。同事業は、開業後に約200人の元ホームレスの人々を受け入れた住宅だ。

この数字が重要なのは、50万ドルが単なる会計項目では済まないからだ。非営利の住宅運営者にとっては、追加住戸、支援サービス、別案件の自己資金に回せた可能性のある資金でもある。

ここがポイント: プロビデンスの案は、入居後の家賃を直接下げる政策ではなく、入居前に開発費を膨らませる税負担を抑え、低所得者向け住宅を建てやすくする政策だ。

もちろん、税収を一時的に抑える以上、市財政との調整は避けられない。プロビデンス市議会は別ページで、2025-2026年度予算をめぐり、固定費の増加や税収上限の問題を説明している。市の支出が膨らむ中で、どの開発にどれだけ税優遇を与えるのかは、今後の審議で問われる。

家賃規制と供給策が同じ週に動いた

今回の BUILD Act は、単独で見ても意味がある。ただ、プロビデンスでは同じ週に、家賃安定化条例も前進した。

Rhode Island Current によると、市議会は2026年4月2日夜、一定の物件を対象に年間家賃上昇を4%に抑える条例案を9対6で第1読会通過させた。第2読会を通れば市長に送られる。報道時点では、最終採決は2026年4月16日にも行われ得るとされている。

この2つの政策は、同じ住宅危機への別々の答えだ。

家賃安定化は「今住んでいる人」を守る

家賃上昇率の上限は、現在の賃借人が急な値上げで住み続けられなくなる事態を防ぐ。プロビデンスでは住民の約6割が賃借人だと市議会側は説明しており、短期的な生活防衛策として支持を集めている。

一方で、ブレット・スマイリー市長側は、家賃統制は住宅価格を下げず、供給不足を悪化させる恐れがあるとして反対姿勢を示している。市長が拒否権を使った場合、15人の市議会で10票の賛成がなければ覆せない。

BUILD Act は「これから建つ住宅」を増やす

BUILD Act は、賃借人に直接小切手を渡す政策ではない。対象開発の建設中コストを下げ、低・中所得者向け住宅を成立しやすくする政策だ。

家賃安定化が既存の賃貸市場にブレーキをかける発想だとすれば、BUILD Act は新しい住宅供給の摩擦を減らす発想に近い。両方を同時に進めるところに、プロビデンスの難しさがある。

  • 借り手は、すぐ効く家賃抑制を求める。
  • 開発者や非営利住宅団体は、建設費と税負担の予測可能性を求める。
  • 市は、住宅供給を増やしたい一方で、財政収入も確保しなければならない。

この三者の利害が重なる場所に、今回の税安定化案が置かれている。

州全体でも住宅供給策が続く

ロードアイランド州では、州議会レベルでも住宅供給を増やすための法案が続いている。州議会の発表によると、下院議長 K. Joseph Shekarchi は2026年2月、住宅関連の9法案パッケージを公表した。2021年の議長就任以降、6回目の包括的な住宅法案群だ。

同発表では、州がこれまで60本超の住宅関連法を成立させたこと、土地利用裁判の専用カレンダーで未処理案件が初年度にほぼ半減したこと、2023年の建築許可が70%増えたことが示されている。

州議会で目立つ案は、プロビデンスの BUILD Act と同じく「供給を増やすために制度上の詰まりを減らす」方向を向いている。

  • Faith-Based Affordable Housing Development Act: 宗教団体が所有する土地で、低所得者向け・複合用途住宅を一定条件のもと「by-right」で開発しやすくする案。LegiScan によると、上院 S2268 は2026年1月23日に上院 Housing and Municipal Government 委員会へ付託され、下院 H7445 は3月31日に下院委員会で further study 扱いとなった。
  • Residential Reuse Incentive Act: 既存建物の住宅転用や複合用途化を支援する州プログラム・基金をつくる案。LegiScan によると、H8142 は2026年3月31日に下院委員会で further study とされた。
  • 単一階段建築や空き公共施設の転用: Boston Globe と Rhode Island Current は、4階・16戸までの単一階段建築の検討、空き自治体建物の住宅転用などもパッケージに含まれると報じている。

ここで重要なのは、ロードアイランド州が「補助金を積む」だけではなく、土地利用、建築基準、税制、既存建物の再利用を同時に触ろうとしている点だ。住宅不足が深い地域では、1つの制度だけを動かしても、別の場所で計画が止まる。

日本の読者が見るべき論点

プロビデンスの話は、米国の地方税制に閉じた話に見える。だが、都市部の住宅政策として見ると、日本でも引きつけて考えやすい論点がある。

第一に、住宅政策は「家賃をどう抑えるか」だけでは足りない。建設前、建設中、入居後で、詰まる場所が違う。プロビデンスの BUILD Act は、入居前の税負担という、普段は見えにくい段階に手を入れている。

第二に、優遇の対象設計が問われる。対象を広げすぎれば税収を失うだけになり、狭すぎれば住宅供給に効かない。今回の案では、低・中所得者向け制限付き住宅が少なくとも半数という条件や、大規模改修で25万ドル以上という線引きが置かれている。

第三に、借り手保護と供給促進は、政治的にはしばしばぶつかる。家賃上昇を止めたい住民と、採算を確保したい開発者の間で、市長、市議会、非営利団体がどこに線を引くかが争点になる。

今後の注目点

プロビデンスの BUILD Act は、家賃安定化条例ほど派手ではない。だが、住宅を実際に増やすには、こうした地味な制度設計が効くかどうかが重要になる。

今後見るべき点は、次の3つだ。

  • BUILD Act の対象条件が審議でどこまで維持されるか。
  • 家賃安定化条例の第2読会、そして市長の拒否権行使の有無。
  • 州議会の住宅供給法案、とくに宗教団体所有地や既存建物再利用の案が、委員会段階から前に進むか。

住宅危機の現場では、完成した住戸数だけが結果ではない。着工前に止まった計画、建設中に膨らんだ税負担、入居までに失われた資金も、最終的には家賃と供給戸数に跳ね返る。プロビデンスの小さな税制案は、その見えにくい部分を政策のテーブルに乗せた。

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