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オランダはなぜASML輸出規制で米国に押し返すのか 半導体装置をめぐる「同盟国ルール」の綱引き

オランダはなぜASML輸出規制で米国に押し返すのか 半導体装置をめぐる「同盟国ルール」の綱引き

米国議会で進む半導体製造装置の対中規制案に対し、オランダ政府が慎重姿勢を強めています。焦点は、オランダのASMLが中国向けに扱うDUV露光装置や保守サービスまで、米国主導の規制にどこまでそろえるかです。

これは一企業の輸出問題にとどまりません。AI、軍事転用、同盟国間の産業競争、日本企業を含む装置サプライチェーンが同じ線上に乗る話です。

  • 米国のMATCH Actは、中国が先端半導体製造装置を入手する抜け道をふさぐ狙いがある
  • 最新の報道では法案は一部縮小されたが、ASMLのDUV immersion装置への国単位の制限は残っている
  • ASMLは2026年1〜3月期に売上高88億ユーロ、純利益28億ユーロを計上し、輸出規制協議を通期見通しの変動要因に挙げた
  • 日本の読者にとっては、対中規制が「チップそのもの」から「チップを作る機械」へ深く入っている点が重要になる
目次

何が起きているのか

米国議会の超党派議員は、2026年4月にMATCH Actを打ち出しました。正式名称は「Multilateral Alignment of Technology Controls on Hardware Act」。半導体製造装置の輸出規制を米国だけでなく、オランダや日本などの同盟国にもそろえさせることを狙う法案です。

米上院外交委員会の発表では、法案の目的は、中国などの相手が自国で作れない「チョークポイント」の半導体製造装置を、米国やパートナー国から買えないようにすることだと説明されています。

ここで名前が出るのがASMLです。ASMLはオランダ・フェルトホーフェンに本社を置く半導体露光装置メーカーで、最先端半導体の量産に欠かせないEUV露光装置で圧倒的な地位を持ちます。EUV装置の中国向け輸出はすでに認められていません。

今回の焦点は、その一段下に位置するDUV露光装置です。DUVは古い技術という意味ではありません。先端品だけでなく、メモリー、車載、産業機器向けなど幅広い半導体生産で使われ、中国の半導体工場にとっても重要な設備です。

ロイターが確認した最新案では、法案は当初案から一部縮小されたものの、ASMLのDUV immersion装置に対する国単位の新たな制限は残っていると報じられています。つまり、米国側は「対象を絞る」方向に動きつつも、ASMLの中国ビジネスに直接触れる部分はまだ手放していません。

オランダ政府が反発する理由

オランダ政府が問題視しているのは、対中規制そのものだけではありません。米国が自国の安全保障上の判断を、同盟国企業の商売と雇用にまで及ぼす形になっている点です。

NL Timesによると、ロブ・イェッテン首相は2026年4月の訪米時、トランプ大統領との夕食会やホワイトハウスの経済顧問との会談で、ASMLに関わる輸出制限を取り上げました。会談は「建設的」とされつつも、意見の違いがあり、合意には至っていません。

ASMLはオランダ経済の象徴でもある

ASMLは単なる大企業ではありません。オランダが国際政治で発言力を持つ数少ない戦略産業の中核です。

ASMLの2026年1〜3月期決算は、その大きさを示しています。

  • 売上高: 88億ユーロ
  • 純利益: 28億ユーロ
  • 2026年通期売上高見通し: 360億〜400億ユーロ
  • 従業員数: 4万4,000人超

同社は同じ発表で、2026年見通しの幅には「輸出規制をめぐる継続協議の潜在的な結果」が含まれると説明しました。これは、規制が決算説明の脚注ではなく、売上計画そのものに入り込んでいることを意味します。

ここがポイント: 米国は中国のAI・軍事技術を抑えるために装置の流れを止めたい。一方、オランダはASMLという国家的企業の事業判断を、米国議会の法案だけで縛られたくない。

「同盟国だから同じルール」とは限らない

米国側の論理は明快です。米国企業だけを規制しても、中国がオランダや日本の装置を買えるなら効果が薄い。だから同盟国と規制をそろえる必要がある、という考えです。

しかし、オランダ側から見ると話は違います。ASMLの装置には米国製部品やソフトウェアも関わりますが、会社はオランダ企業であり、輸出許可を出す主体もオランダ政府です。米国が「抜け道」と呼ぶ部分は、オランダにとっては自国の産業政策と外交判断の領域です。

なぜ日本の読者にも関係するのか

この問題は、オランダだけの話では止まりません。米議会の発表やCSISの分析では、規制協調の対象としてオランダと並んで日本も挙げられています。半導体製造装置では、日本企業も露光、成膜、洗浄、検査など多くの工程で重要な役割を持ちます。

日本の企業や政策担当者にとって、見るべき点は3つあります。

1. 規制対象が「完成品チップ」から「製造能力」へ移っている

これまで注目されやすかったのは、AI向けGPUなどの高性能チップそのものの対中輸出規制でした。今回の争点はさらに川上です。

半導体を作る装置、装置の部品、保守、ソフトウェア更新まで制限対象に入ると、中国企業は既存設備を長く使うことも難しくなります。これは中国の半導体自立を遅らせる一方、装置メーカーにとっては販売後のサービス収入にも影響します。

2. 同盟国企業にも米国政治の影響が及ぶ

MATCH Actは米国法案ですが、狙いは米国企業だけではありません。オランダのASML、日本の装置メーカー、米国の部品・ソフトウェア企業が同じ網に入ります。

日本企業にとっては、米中対立を「輸出先を選ぶ問題」としてだけ見るのでは足りません。米国の法案、同盟国間の合意、中国側の報復措置、顧客工場の所在地が重なり、契約、保守、納期、投資判断に影響する可能性があります。

3. AI競争はデータセンターだけで決まらない

AIをめぐる報道では、GPU、クラウド、電力不足が目立ちます。しかし、先端AIの土台には高性能半導体があり、その半導体を量産する装置が必要です。

米国がASMLのDUV装置まで問題にしているのは、中国のAI開発をチップ設計や輸入規制だけでなく、製造現場から抑えようとしているためです。規制が強まれば、中国は国内装置産業の育成を急ぎ、迂回調達や成熟ノードへの投資を増やす可能性があります。

今後のシナリオ

現時点で、MATCH Actは成立した法律ではありません。法案の文言は変わり得ますし、政府間交渉で運用が調整される余地もあります。

ただし、方向性ははっきりしています。米国では、対中半導体規制を政権の行政措置だけに頼らず、議会立法でより固くする動きが出ています。

シナリオ 起きること 影響を受ける主体
法案が強い形で進む DUV装置や保守への制限が広がる ASML、中国半導体メーカー、日本の装置関連企業
同盟国との調整で緩む 対象装置や顧客を絞り、例外規定が増える オランダ政府、米国政府、装置メーカー
中国が対抗措置を取る 重要鉱物、許認可、現地調達で圧力が出る 米欧日企業、中国に工場や顧客を持つ企業

もっとも現実的なのは、全面禁止か全面自由化かではなく、対象企業、装置の世代、保守内容、ソフトウェア更新の範囲を細かく区切る形です。その場合、企業は契約ごとに許可リスクを見積もる必要があります。

次に見るべき3つの点

このニュースは、法案名だけを追うと見えにくくなります。次に確認すべきなのは、実際の商流がどこで止まるかです。

  • 米議会での修正内容: DUV immersion装置への制限がどこまで残るか
  • オランダ政府の輸出許可判断: ASMLの既存顧客向け保守や更新がどう扱われるか
  • 日本企業への波及: 日本の装置・部材メーカーが米国との規制協調でどこまで対象になるか

ASMLの決算は、AI需要が半導体装置市場を押し上げていることを示しました。同時に、その成長の一部は米中対立の規制線上にあります。

オランダが米国に押し返しているのは、対中融和をしたいからではありません。半導体の安全保障ルールを誰が決めるのか、そして同盟国企業の負担をどこまで共有するのか。その答えがまだ固まっていないからです。

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