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アイルランドで新しい賃貸ルールが始動 「家賃は抑える、でも入居時は上がるかもしれない」改革の難しさ

アイルランドで新しい賃貸ルールが始動 「家賃は抑える、でも入居時は上がるかもしれない」改革の難しさ

アイルランドで2026年3月1日から、新しい賃貸ルールが始まりました。新規契約では家賃の年1回・上限2%またはCPIまでという全国共通ルールが入り、特に大規模大家による「ノーフォルト立ち退き」は大きく制限されます。

ただし、入居者が入れ替わる時や6年ごとの節目には市場家賃へ戻せる余地が残されました。政府は「供給を増やしつつ借り手を守る」設計だと説明しますが、批判側は「新しく借りる人ほど不利になりかねない」と見ています。

目次

何が変わったのか

今回の制度変更は、2026年3月1日以降に始まる新規賃貸契約が主な対象です。既存契約には原則として新しい保護はそのまま自動適用されません。

変更点中身意味合い
全国共通の家賃規制家賃引き上げは年1回、2%またはCPIの低い方まで従来の地域指定型より広く、全国で上限が効く
6年の最低居住期間新規契約は6年単位の保護が基本借り手の居住安定を強める
大規模大家の立ち退き制限4件以上を持つ大家は、売却・自己使用・用途変更・大規模改修などを理由に途中終了しにくい「大家都合」での退去圧力を弱める
市場家賃への再設定入居者が自発的に退去した場合などに新規契約時の市場家賃設定が可能。さらに新制度下の契約では6年ごとに再設定余地供給側の採算を意識した設計だが、入居時の家賃上昇要因にもなる

要するに、住み続ける人は守るが、次に入る人の負担が軽くなるとは限らないという制度です。

なぜ今この改革なのか

背景には、アイルランドの深刻な住宅不足があります。政府系のHousing Agencyは2025年のレビューで、従来のRent Pressure Zones(RPZ、家賃上昇を抑える区域指定)が在住中の借り手の家賃抑制には一定の効果を持った一方、新規入居者の初期家賃が高くなりやすい副作用もあったと整理しました。

RTBとESRIの公表データでも、2025年Q2の新規契約の標準化平均家賃は月1,731ユーロ、既存契約は1,482ユーロでした。差は248ユーロで、新しく借りる人ほど高い構図がすでに見えています。

政府はここで、

  • 家賃上昇の上限を全国化する
  • 立ち退き保護を強める
  • その代わり、一定条件では市場家賃への再設定を認めて投資離れを防ぐ

という折衷案を選びました。

争点は「借り手保護」と「供給確保」を両立できるか

制度の狙いは明快ですが、争点もはっきりしています。

1. 既存入居者には追い風

年ごとの上げ幅に全国上限がかかり、途中の立ち退き理由も狭まるため、いまから新制度で入る借り手が長く住み続ける場合には安定効果が見込みやすいです。

2. ただし新規入居時の家賃は上がりやすい

市場家賃への再設定が認められる以上、大家は「次の契約開始時に一度相場まで上げる」動機を持ちます。Housing Agencyのレビューも、国際研究を踏まえてこの点を副作用として指摘しています。

3. 供給が本当に増えるかはまだ不透明

政府は投資を呼び戻す狙いを強調していますが、業界側には「なお退出が進む」との見方もあります。逆に、借り手団体や野党は「新規入居者にしわ寄せが来る」と批判しています。制度の評価は、今後の供給戸数と新規家賃の動きで決まる段階です。

住宅危機の中で見ると重みが増す

この改革が注目されるのは、タイミングの問題でもあります。アイルランド政府の2026年1月分ホームレス月次報告では、緊急宿泊施設にいた人は17,112人で、そのうち子どもは5,319人でした。家賃制度の議論が、単なる市場ルールではなく生活基盤の問題になっていることが分かります。

つまり今回の法改正は、理想論ではなく、

  • 家賃を抑えたい
  • 追い出されにくくしたい
  • それでも貸し手が市場から消えるのは避けたい

という、かなり切迫した三つ巴の調整です。

今後の見通し

現時点では、次の3つが焦点になりそうです。

シナリオ1: 在住者保護は進むが、新規家賃は高止まり

最も起こりやすいのはこの形です。制度の恩恵は「すでに住んでいる人」「長く住み続ける人」に出やすく、転居が必要な人には厳しさが残ります。

シナリオ2: 大家の退出が続き、供給不足が解消しない

立ち退き制限が強まる分、小規模大家を中心に市場から退く動きが続けば、空室不足が長引く可能性があります。

シナリオ3: 供給が持ち直し、制度が安定化する

新築アパートでは2%上限ではなくCPI連動のみとする例外もあり、政府はここで投資を呼び込みたい考えです。もっとも、これは実際の着工・供給増が伴って初めて成立する見立てです。

日本から見ると何が面白いか

1つ目は、家賃規制を「弱めるか強めるか」ではなく、誰を守るかで組み替えている点です。アイルランドは一律の凍結ではなく、在住者保護を厚くしつつ、新規契約には相場復帰の余地を残しました。

2つ目は、住宅政策が福祉政策とほぼ一体になっている点です。ホームレス統計の重さが、賃貸法改正の政治的な緊急性を押し上げています。

3つ目は、これは日本でも他人事ではないという点です。大都市の賃貸市場が逼迫した時、借り手保護を強めれば供給が逃げるのではないか、逆に供給重視なら入居者が守られないのではないかという悩みは共通しています。アイルランドの改革は、その難問に対するかなり露骨な実験だと言えます。

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