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英国の賃貸改革、退去通知と家賃交渉は何が変わったか|2026年6月2日版

英国の賃貸改革、退去通知と家賃交渉は何が変わったか|2026年6月2日版

英国イングランドで、民間賃貸のルールが大きく変わった。2026年5月1日から、家主が理由を示さずに退去を求める「Section 21」の新規通知が使えなくなり、固定期間つき契約も原則として更新型の賃貸に切り替わった。

6月に入って焦点になっているのは、制度そのものよりも「入居者が自分の権利を知らされているか」だ。英国政府は、多くの家主や管理会社に対し、公式の情報シートを2026年5月31日までに借主へ渡す義務を課した。

  • 対象は主にイングランドの民間賃貸住宅
  • Section 21の「理由なき退去通知」は2026年5月1日から新規に使えない
  • 家賃の値上げは原則として年1回、書面通知と異議申立ての仕組みが中心になる
  • 情報シートを渡さない家主は、最大7,000ポンドの罰金を受ける可能性がある
目次

何が変わったのか

今回の改革は、家主と借主の力関係を日常の契約手続きから変えるものだ。

英国政府の公式情報シートによると、2026年5月1日以降、民間賃貸の借主には新しい権利が適用される。政府はこの改革がイングランドの約1,100万人の民間借主に関わるとしている。

主な変更は次の通り。

  • 固定期間つきの assured tenancy は、原則として更新型の periodic tenancy に移る
  • 以前の契約書に退去条項があっても、Section 21による新規の退去通知は使えない
  • 家主が退去を求めるには、家賃滞納、反社会的行為、売却、自己使用などの法的理由が必要になる
  • 借主はペット飼育を求める権利を持ち、家主は不合理に拒否できない
  • 物件広告では募集家賃を明示し、入居希望者同士を競わせる「賃料入札」を禁じる

ここで重要なのは、単に「退去させにくくなった」という話ではない。借主が生活の予定を立てやすくなる一方で、家主側も物件売却や家族の入居、家賃滞納への対応など、認められた理由があれば手続きを進められる仕組みになっている。

6月の焦点は「情報シート」

制度変更の直後に見落とされやすいのが、借主への説明義務だ。

英国政府は2026年6月1日に情報シートの案内ページを更新し、多くの家主・管理会社が2026年5月31日までに借主へ公式情報シートを渡していなければならないと示した。渡し方にも条件がある。

  • 紙で手渡し、または郵送する
  • PDFをメールやテキストメッセージに添付する
  • 単にPDFへのリンクを送るだけでは有効とされない
  • 借主全員にコピーを渡す必要がある

情報シートには、契約が自動的に変わる点、家賃値上げの手続き、退去を求められた場合の対応、ペットを求める権利などが短くまとめられている。借主が「契約書に昔の文言が残っているから従うしかない」と誤解しないようにするための文書だ。

ここがポイント: 改革の実効性は、法律が成立したことだけでは決まらない。借主が新しいルールを知り、家主や管理会社が古い契約慣行を続けないことが前提になる。

退去と家賃、生活のどこに効くのか

この改革で生活場面に最も響くのは、退去と家賃の2点だ。

「突然の退去」の前提が変わる

Section 21は、家主が理由を示さずに借主へ退去を求められる仕組みとして長く批判されてきた。新制度では、2026年5月1日以降にSection 21通知を出すことはできない。

ただし、移行期間は残っている。政府は、2026年5月1日より前に有効なSection 21通知が出されていた場合、一定の条件のもとで旧制度の手続きが残ると説明している。Shelterも、5月1日前に出された通知については、家主が2026年7月31日までに手続きを始める必要があると整理している。

つまり、借主側が確認すべきなのは「通知がいつ出されたか」だ。5月1日以降の通知なのか、それ以前に出された通知なのかで、取るべき対応が変わる。

家賃値上げは「契約条項」より法定手続きへ

家賃についても、契約書にある自動値上げ条項だけで進めるやり方は弱まる。政府の情報シートでは、2026年5月1日以降の家賃値上げは、Housing Act 1988のSection 13手続きによると説明されている。

借主にとっての実務上の意味は明確だ。

  • 値上げは原則として年1回
  • 少なくとも2カ月前の書面通知が必要
  • 市場家賃を超えると考える場合、First-tier Tribunalで争える

この仕組みは、家賃が上がらない保証ではない。むしろ、上げる場合に「どの手続きで、どの水準までか」を見える形にする制度だ。

家主側に残る不安と、これからの段階

家主や管理会社にとっては、契約書、広告、退去手続き、家賃通知の実務をまとめて直す必要がある。

英国政府は、2026年5月以降の第一段階に続き、2026年後半から次の制度を導入する予定だとしている。

  • 民間家主オンブズマン
  • 民間賃貸セクターのデータベース
  • 住宅の状態に関する基準強化
  • Awaab’s Lawの民間賃貸への拡張に向けた検討

このうちデータベースとオンブズマンは、借主が苦情を出す先や、家主の登録状況を確認する手段に関わる。法律上の権利だけでなく、実際に相談し、証拠を出し、行政や第三者機関につなぐルートが整うかが次の論点になる。

日本から見ると何が参考になるか

日本の賃貸制度と英国の制度は同じではない。だから「日本も同じ法律を入れるべきだ」と短く結論づける話ではない。

ただ、参考になる場面はある。たとえば、入居募集時の家賃表示、更新や退去をめぐる説明、ペット可否の判断、家賃値上げの通知方法など、借主が契約前後に迷いやすい場面だ。

英国の今回の改革は、住まいをめぐる不安を「個別交渉の強さ」だけに任せない方向へ寄せている。家主が何を説明しなければならないか、借主がどこへ異議を出せるかを、制度として前面に出した。

今後見るべき点は3つある。

  • 2026年7月31日までに、旧Section 21通知をめぐる駆け込み手続きがどれだけ出るか
  • 地方自治体が罰金や調査権限を実際にどこまで使うか
  • オンブズマンとデータベースが、借主の相談を裁判前にどれだけ受け止められるか

法律の名前よりも、家主から届く1通のPDF、家賃通知の形式、退去理由の書き方が変わる。英国の賃貸改革は、そうした細かい手続きから住宅市場の力関係を動かそうとしている。

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