広島原爆81年、「核抑止」と非核三原則が問われる理由|2026年8月7日版
広島は2026年8月6日、原爆投下から81年を迎えました。今年の焦点は追悼だけではありません。核抑止への依存を強める世界に対し、被爆国・日本が非核三原則を今後も守り抜けるのかが、改めて問われています。
政府は年内に安全保障関連3文書の改定を予定しています。式典で示された言葉が、実際の安全保障政策にどう反映されるかが次の注目点です。
- 広島市の松井一實市長は、核兵器を抑止力として正当化する政治指導者を批判
- 約120の国・地域の代表を含む約5万人が参列予定と報じられた
- 高市早苗首相は非核三原則を堅持する考えを式典で表明
- 一方、政府内では核兵器をめぐる議論を避けるべきでないとの発言も出ている
広島で何が起きたのか
平和記念式典は8月6日午前8時、広島市中区の平和記念公園で始まりました。原爆が投下された午前8時15分には、平和の鐘に合わせて1分間の黙とうが行われました。
広島市の式次第には、原爆死没者名簿の奉納、献花、松井市長による平和宣言、こども代表による「平和への誓い」などが並びました。
松井市長が強く訴えたのは、核兵器を保有することが安全につながるという発想からの転換です。大国が国際法を踏みにじり、核兵器を圧力の手段として使う現状を批判。核抑止を現実的な安全保障政策として受け入れる姿勢が、核兵器のない世界を遠ざけていると指摘しました。
AP通信によると、式典には米国やイランを含む約120の国・地域の代表など、約5万人が参列予定でした。立場の異なる国々が同じ場所で犠牲者を悼んだこと自体にも、広島が持つ外交的な意味があります。
今年の焦点は「非核三原則」の行方
今回の式典が例年以上に注目された背景には、日本政府が年内に安全保障関連3文書を改定する予定であることがあります。
非核三原則は、日本が核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」とする政策です。高市首相は式典で、三原則を堅持する考えを示しました。
しかし、今後の政策文書でどのように位置づけられるかは別の問題です。AP通信は、首相の発言について、将来にわたって現在の方針を維持するとの明確な保証には踏み込まなかったと報じています。
議論の中心は「持ち込ませず」
最大の争点になりやすいのは、三つ目の「持ち込ませず」です。
日本は米国の「核の傘」による拡大抑止に依存しています。その実効性を高めようとすれば、米軍の運用と「持ち込ませず」の原則をどう両立させるのかという問題が避けられません。
政府内からは、核兵器の役割をタブーなく議論すべきだとの発言も出ています。一方、被爆者団体は、核共有や核兵器の持ち込みにつながる政策に反対しています。
ここがポイント: 式典で非核三原則の堅持を表明するだけでは結論は出ません。年内に改定される安全保障文書へ、どのような文言で盛り込まれるかが重要です。
なぜ今、核抑止が争点になるのか
背景には、日本を取り巻く安全保障環境の変化があります。
- 中国は核戦力と軍事力を拡大している
- 北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している
- ロシアはウクライナ侵攻をめぐり核兵器による威嚇を繰り返してきた
- 日本政府は米国による拡大抑止の信頼性を重視している
こうした脅威を理由に、核抑止を現実的な安全保障策と見る意見があります。核兵器を使えば相手から壊滅的な反撃を受けるため、使用を思いとどまらせられるという考え方です。
これに対し、広島市や被爆者団体が突きつけるのは、抑止が一度でも破綻すれば、市民に取り返しのつかない被害が及ぶという現実です。誤認、事故、指導者の誤算まで含めれば、核兵器を保有し続けること自体が危険を残します。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長も式典へのメッセージで、核兵器削減の流れが逆行し、核実験禁止の国際規範も脅かされていると警告しました。2025年の世界の軍事費が2兆9,000億ドルに達したことにも触れ、対話や外交への投資を求めています。
被爆者が減るなか、記憶をどう引き継ぐか
政策論と同時に迫っているのが、被爆体験の継承です。
AP通信によると、被爆者健康手帳を持つ人は9万1,105人まで減り、平均年齢は86歳を超えました。被爆時に幼かった人も多く、自らの記憶を詳しく語れる人は今後さらに少なくなります。
ここで問われるのは、式典を毎年繰り返すことだけではありません。
- 被爆者の証言を映像や音声で保存する
- 学校教育で被害と歴史的背景の両方を扱う
- 若い世代が証言を受け継ぎ、自分の言葉で伝える
- 安全保障政策の議論で、市民が受ける被害を数字だけにしない
広島市が式典でこども代表による「平和への誓い」を設けているのも、記憶を次世代の行動へつなぐためです。証言の保存と、現在の政策を検証する作業は切り離せません。
ネット上の受け止めと世論
オンライン上では、核保有国への批判を支持する声がある一方、中国、北朝鮮、ロシアの軍事動向を踏まえれば抑止力の議論は必要だという意見も見られます。ただし、個々の投稿は世論全体を示すものではありません。
判断材料になるのは、一定の方法で実施された世論調査です。仏紙ル・モンドは、共同通信が2026年6~7月に行った調査で、回答者の76%が非核三原則の維持を望んだと報じました。
この数字から見えるのは、安全保障上の不安が強まっても、三原則の見直しには慎重な人が多いということです。政府が変更を検討するなら、想定する脅威、得られる効果、核持ち込みの危険、周辺国への波及を具体的に説明する必要があります。
次に見るべき3つの動き
広島の平和宣言を一日のニュースで終わらせないため、今後は次の動きを確認する必要があります。
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安全保障関連3文書の文言
非核三原則が明記されるのか。「持ち込ませず」の扱いに変化がないかが焦点です。 -
8月9日の長崎平和祈念式典
長崎市や被爆者団体が政府に何を求め、首相がどう応じるかが注目されます。 -
核兵器禁止条約への日本の対応
日本政府は条約に参加していません。締約国会議へのオブザーバー参加を含め、被爆国としてどの外交ルートを選ぶのかが問われます。
81年目の広島が示したのは、追悼と安全保障政策を別々に扱えないという現実です。次の判断材料は、年内に改定される安全保障関連3文書です。政府が非核三原則をどの言葉で残し、米国の核抑止との関係をどう説明するのか。そこまで確認して初めて、式典での表明が政策として守られるかを判断できます。
