フィリピン、外国人就労許可をマニラに集約 地方差の解消と「中央詰まり」が焦点|2026年7月28日版
フィリピン政府は、外国人の雇用に必要な「外国人雇用許可(AEP)」の審査・発行を地方労働局からマニラの中央機関へ集約しました。申請要件や手数料、標準処理期間は変えず、地域によって異なっていた運用を統一するのが狙いです。
一方、これまで各地で処理していた申請が中央へ集まるため、制度の成否は、オンライン手続きと問い合わせ対応が申請量に耐えられるかにかかっています。フィリピンで外国人を雇う企業にとっては、提出先だけを変えれば済む話ではありません。
- 2026年6月9日から、地方労働局はAEPの新規・更新申請を扱わない
- 審査、発行、異議処理、法令執行を労働雇用省の雇用局(BLE)へ集約
- 必要書類、手数料、15営業日の標準処理期間は維持
- 地方の求人状況を確認する労働市場テストもBLEが管理する
何が変わったのか
AEPは、外国人がフィリピン国内で働く際に労働雇用省(DOLE)から取得する許可です。入国管理当局が扱う滞在資格とは役割が異なり、雇用主と外国人本人は双方を確認する必要があります。
DOLEは行政命令第199号に基づく発表で、6月9日から地方労働局によるAEPの受け付け、審査、発行を停止しました。その後の省令第248-B号では、次の機能をBLEへまとめています。
- 新規・更新申請の受け付けと審査
- 許可証の承認、発行、交付
- 適用除外・免除に関する証明
- 異議や違反案件の処理
- 雇用主が国内で人材を確保できないか確認する労働市場テスト
6月8日の業務終了時点で地方に残っていた申請は、中央へデジタル移管されました。DOLEは、移管を理由に処理期間を最初から数え直したり、申請者へ不利益を与えたりしない方針を示しています。
なぜ地方処理をやめたのか
直接の理由は、地域ごとの運用差です。
BLEの担当者はフィリピン情報庁(PIA)の取材に対し、地方労働局によってAEP規則の一部に異なる解釈が見られたと説明しています。同じ条件の申請でも、提出先によって確認方法や判断が変わる状態を是正するため、中央機関が一括して扱うことになりました。
統一されるのは「窓口」だけではない
今回の集約は、単に書類の送付先をマニラへ変更する措置ではありません。BLEは地方向けのデジタル基盤と労働者登録情報を使い、求人の公示や労働市場テストも管理します。
ここが重要です。AEP制度には、外国人を採用する前に、その仕事を担えるフィリピン人がいないかを確かめる役割があります。中央集約によって審査基準がそろえば、企業にとって予測しやすくなる一方、地方特有の人材不足を中央が正確に判断できるかが問われます。
ここがポイント: 変わったのは申請要件ではなく、判断する組織です。地域差の解消が期待される半面、地方の雇用事情を中央審査へどう反映するかが次の課題になります。
企業と外国人労働者への実務上の影響
DOLEによると、必要書類、手数料、手続きの流れ、15営業日の標準処理期間は維持されます。申請はマニラ・イントラムロスにあるBLEへ直接提出するか、指定メールを通じて行います。
雇用主が確認すべきこと
フィリピンで外国人を採用する企業、とりわけ地方都市や経済特区で操業する企業は、社内手順の更新が必要です。
- 古い地方労働局の提出先を申請書式や社内マニュアルから外す
- 更新期限から逆算し、BLEへの提出と照会に必要な時間を確保する
- 求人公示と労働市場テストに使う職務内容を具体的に記録する
- AEPと就労可能な滞在資格を混同せず、それぞれの有効期限を管理する
- 個人情報をメールで送る場合は、最新の提出方法と保護要件を確認する
KPMGの制度解説も、多国籍企業の人事担当者や海外赴任者にとって、地域差が減る可能性を指摘しています。ただし、移行期には提出先や進行状況を個別に確認する必要があります。
地方企業への影響は一様ではない
地方窓口がなくなるからといって、すべての地域連携が消えるわけではありません。
例えばクラーク経済特区では、クラーク開発公社が書類の予備確認を続け、BLEが労働市場テストを担当する分担が組まれました。現地で報じられた合意は、中央審査と地域支援を併用できることを示しています。
ただし、同様の支援体制が全国で均一に用意されているとは限りません。マニラから離れた企業ほど、地域窓口が担っていた相談や書類確認を誰が補うのか確認が必要です。
期待できる効果と残るリスク
制度の狙いは明確です。審査を一か所に集めれば、同じ規則を同じ基準で適用しやすくなり、不備の傾向や違反案件も全国規模で把握できます。
DOLEは、移管する申請データについて、暗号化と管理記録を伴うデータ移転手順を適用するとしています。外国人の旅券情報や雇用条件を扱うため、効率化と同時に情報管理も重要です。
一方、今後は次の点を見極める必要があります。
1. 15営業日の処理期間を守れるか
地方に分散していた仕事がBLEへ集中します。公表された標準期間が移行後も維持されるかは、企業の採用日程や外国人本人の滞在手続きに直結します。
2. 地方の労働市場を正確に反映できるか
専門人材が不足する職種は地域によって異なります。中央の共通基準を保ちながら、地方の求人状況を判断材料に組み込めるかが焦点です。
3. 相談機能をどう補うか
申請者にとって、書類を審査する機関と、提出前の相談に応じる窓口は別の役割です。DOLE首都圏局は7月、企業や法律事務所など220人が参加する移行説明会を開催しました。こうした案内が地方にも継続して届くかが、書類不備や問い合わせ集中を抑える鍵になります。
日本企業にも関係する「行政の中央集約」
フィリピンへ社員を派遣する日本企業や、現地で外国人専門職を採用する企業は、AEPの更新を現地拠点任せにせず、本社の人事・法務部門でも提出先と期限を確認した方が安全です。
特に注意したいのは、制度変更前から進行中の申請です。旧窓口へ提出した記録、中央への移管状況、現在の担当部署を一つの台帳で追えるようにしておけば、照会先が変わっても対応しやすくなります。
今回の改革が成功したかどうかは、「中央集約した」という発表だけでは判断できません。今後見るべきなのは、15営業日の処理期間、地方での相談手段、労働市場テストの地域精度という三つの実績です。フィリピンで採用や駐在員配置を予定する企業は、次回申請の前にBLEの最新案内と地域支援窓口を確認する必要があります。
