AzureがAMD「Helios」を採用、AI推論基盤はGPU単体から分業型へ|2026年7月21日版
Microsoftは7月20日、AMDのラックスケールAI基盤「Helios」と次世代EPYCプロセッサをAzureへ導入すると発表しました。
核心は、新しいGPUを追加することだけではありません。推論、データ処理、半導体設計を、それぞれ専用の仮想マシンで支える分業型の基盤へ踏み込んだ点です。AIエージェントが検索や外部ツールの実行を繰り返す環境では、GPU以外の処理能力もサービス全体の応答速度を左右します。
- ND MI455X v7:大規模な推論、推論モデル、検索、AIエージェント向け
- HDv2:データ準備、検索、強化学習、エージェントの処理調整向け
- HXv2:AI半導体の設計や科学技術計算向け
- 料金、提供地域、一般提供日は今回の発表では示されていない
Azureが追加する3種類の計算基盤
今回発表された3シリーズは、同じAIシステムの異なる工程を担当します。
ND MI455X v7:本番規模のAI推論を担当
ND MI455X v7は、AMD Instinct MI455Xを組み込んだHeliosを基盤とし、推論モデル、検索、AIエージェントなどの本番ワークロードを対象にします。
Heliosは、GPUだけで完結する製品ではありません。AMDの説明では、MI455Xアクセラレーター、次世代EPYC「Venice」、Pensando「Vulcano」ネットワークインターフェース、ROCmソフトウェアをラック単位で統合します。
大規模推論では、複数のアクセラレーター間でモデルの重みや中間データを頻繁に受け渡します。そのため、個々のGPU性能だけでなく、ラック内外の接続、CPU、メモリ、ソフトウェアの連携が実効性能を決めます。AzureがHeliosを採用する意味は、アクセラレーターを単品で導入するのではなく、推論用システムとしてまとめて展開することにあります。
HDv2:GPUへデータを送り続ける土台
HDv2は、AI向けデータ処理の停滞を減らすCPU中心の仮想マシンです。Microsoftが公表した主な仕様は次の通りです。
- 第6世代AMD EPYCの物理CPUコア:約500基
- メモリ:4TB
- ローカルNVMeストレージ:32TB
- Azure Boostネットワーク:400Gbps
用途には、データ準備、検索、強化学習、AIエージェントの処理調整が挙げられています。
生成AIサービスでは、GPUが文章を生成する前後に、文書の検索、データ形式の変換、権限確認、複数ツールへの指示といったCPU処理が発生します。ここが詰まれば、高性能なGPUを用意しても待ち時間は縮まりません。HDv2は、この周辺処理を一つの重要な計算層として扱う設計です。
HXv2:次のAIチップを設計するための計算資源
HXv2は、半導体のRTLシミュレーションや科学技術計算を対象にします。
- 第6世代AMD EPYCのCPUコア:176基
- クロック周波数:5GHz超
- コア当たりの利用可能キャッシュ:従来HX比で50%増
- メモリ:約2TBまたは4TB
- InfiniBand:800Gbps
半導体設計では、回路の動作検証やシミュレーションを繰り返します。HXv2は高い単一スレッド性能と大容量キャッシュを重視し、GPU向けVMとは異なる構成を採用しました。
AIチップの開発にクラウド上の計算資源を使い、そのチップを再びクラウドへ配備する。この循環を短縮する役割がHXv2にあります。
なぜGPUだけではAIエージェントを支えられないのか
AIエージェントは、一度の入力に一度答えるだけの処理とは異なります。検索し、結果を読み、必要なら別のツールを呼び出し、途中経過を保持して次の判断へ進みます。
この処理では、複数の計算資源が連続して動きます。
- CPUが入力や業務データを整える
- ストレージや検索基盤から必要な情報を取得する
- GPUがモデル推論を実行する
- CPUがツール実行や次の処理を調整する
- ネットワークが各処理のデータを運ぶ
ここがポイント: AI基盤の性能は、GPUの最高速度だけでは決まりません。データ準備、検索、ネットワーク、エージェント制御まで含め、処理の遅い箇所を減らせるかが重要です。
Microsoftが3種類のVMを同時に示したのは、この処理連鎖を用途別の計算基盤で支えるためです。モデルの学習や推論だけでなく、その前後にあるデータ処理までインフラ設計の対象になっています。
日本の開発者と企業が確認すべき点
現時点では、導入を即決するための情報はそろっていません。Microsoftは3シリーズを「今後提供する」としており、価格、リージョン、提供開始日、詳細な利用条件は公表していないためです。
開発者・基盤担当者
AMD系GPUを選択肢に加える場合は、モデルが動くかだけでなく、次を検証する必要があります。
- ROCmで利用するフレームワークや推論エンジンの対応状況
- 既存モデルの精度を保てる数値形式と量子化方式
- 複数GPUへ分散した際のスループットと遅延
- 監視、障害対応、コンテナイメージの運用方法
企業のAIサービス運用者
比較対象にすべきなのはGPU時間単価だけではありません。検索やデータ準備を含む処理全体について、1件当たりの費用、応答時間、同時実行数を測る必要があります。
特にAIエージェントでは、外部APIの待ち時間やCPU処理が長ければ、GPUの性能差がサービス全体へそのまま反映されない場合があります。実際の業務フローに近い負荷試験が欠かせません。
継続ウォッチ
次に確認すべき項目は具体的です。
- ND MI455X v7、HDv2、HXv2の提供開始日と対応リージョン
- VM構成、料金、予約容量、利用上限
- MI455X上での推論性能と電力効率を示す再現可能な測定結果
- ROCm、主要AIフレームワーク、推論エンジンの対応範囲
- 既存のAzure NDシリーズから移行する際の互換性
今回の発表で見えたのは、クラウドAI基盤の競争軸が「どのGPUを載せるか」から、推論の前後を含む一連の処理をどう組み合わせるかへ広がっていることです。次の判断材料は製品名ではなく、提供時に公開される料金と実測値になります。
