豪州でスーパーの「高すぎる価格」が違法に コールズとウールワースを監視|2026年7月19日版
オーストラリアで2026年7月1日、スーパーが生活必需品に著しく高い価格を付けることを禁じる新ルールが始まりました。対象は年間売上高300億豪ドル超の「超大規模小売業者」で、現時点ではコールズとウールワースの2社です。
ただし、店頭価格がすぐ一斉に下がる制度ではありません。競争・消費者委員会(ACCC)が仕入れ費、輸送費、人件費、利益率などを調べ、供給コストと合理的な利益を大幅に上回る価格かを個別に判断します。
- 対象:現時点ではコールズとウールワース
- 基準:供給コストと合理的な利益に比べて「著しく過大」か
- 監視:ACCCが重点商品を選び、価格・利益率・売上高を確認
- 罰則:違反ごとに最大1,000万豪ドルなど、複数基準のうち最も大きい額
「値上げ率」だけでは違反にならない
新ルールには、「前年より何%上がれば違法」といった一律の線引きがありません。ACCCの運用指針によると、商品の価格と、それを店頭まで届けるためにかかった費用、合理的な利益を照らし合わせて判断します。
コストとして考慮されるもの
ACCCが確認する供給コストには、商品の仕入れ代だけでなく、次のような直接・間接費用も含まれます。
- 輸送や保管にかかる費用
- 店舗の賃料、光熱費、人件費
- 盗難や廃棄による損失
- 仕入れ先から受け取る割引、リベート、販売協力金
干ばつで牛肉の仕入れ価格が上がった場合や、遠隔地から冷蔵輸送する青果の費用が増えた場合は、その事情が考慮されます。原価上昇を小売価格へ反映しただけで、直ちに違反になるわけではありません。
一方、競合店が地域から撤退した直後、供給コストが変わっていないのに同じ商品の利益率を大幅に引き上げた場合は、調査対象になり得ます。全国一律の価格設定や、通常価格と特売価格を交互に示す販売方法についても、一時点だけでなく一定期間を通じて検証されます。
ここがポイント: 新制度が取り締まるのは単なる値上げではなく、大手2社の市場支配力を背景に、コストでは説明できないほど利益を上乗せする行為です。
なぜ大手2社だけが対象なのか
制度の境目は、オーストラリア国内でスーパー事業の年間売上高が300億豪ドルを超えるかどうかです。現在この条件に該当するのはコールズとウールワースだけで、アルディや独立系スーパーは含まれません。
政府の制度影響分析は、コールズとウールワースが強固な市場地位を持ち、新規参入の壁も高いと整理しています。既存の競争法や消費者法には、スーパーの価格そのものが過大であることを直接禁じる規定がなかったため、新たな禁止条項が食品・日用品業界の行動規範に加えられました。
ただし、対象を2社に限定する設計には異論もあります。コールズは、新制度の開始に際し、エネルギー、燃料、保険、生産、物流などのコスト上昇が食品価格を押し上げていると主張。ほかの大手・多国籍小売業者が対象外になることは、競争を弱める恐れがあるとの見解を示しました。
ここで争点になるのは、物価高の原因をどこまで小売企業の利益率に求められるかです。ACCCは、価格だけを見て結論を出すのではなく、商品別、地域別、期間別にコストと利益の動きを確かめることになります。
消費者がすぐ実感できる制度なのか
施行と同時に値下げが保証されるわけではありません。 ACCCはまず、消費者や納入業者からの情報、スーパーから取得する価格・利益率・売上高のデータを使い、重点的に調べる商品群を選びます。最初の重点商品は今後数カ月以内に公表される予定です。
大手2社には、価格、販売量、売上高、商品原価、運営費、仕入れ先から受ける各種支払いなどの記録を少なくとも3年間保存する義務も課されました。これにより、値上げの理由を「コスト増」と説明するだけでなく、帳簿や価格履歴で裏付ける必要が生じます。
違反した場合の最大制裁金は、次のうち最も大きい額です。
- 1,000万豪ドル
- 違反で得た利益の3倍
- 利益を算定できない場合、直前12カ月の売上高の10%
消費者団体CHOICEは制度を歓迎する一方、効果が店頭価格に表れるかはまだ判断できないとしています。同団体の2026年調査では、食品・日用品価格を心配する世帯は88%に達しました。制度への期待が大きいだけに、最初の調査対象と執行実績が重要になります。
日本から見ると「価格の根拠」をどう検証するかが焦点
日本の買い物客にとって注目すべきなのは、「高いと感じる価格」を感覚だけで規制する仕組みではない点です。オーストラリアは、商品別の価格、原価、物流費、販促、地域差を記録させ、規制当局が後から検証できる形を選びました。
この考え方は、日本で食品の値上げや容量減少を判断する場面にも具体的な問いを投げかけます。
- 原材料費が下がった後も、小売価格や内容量は元に戻らないのか
- 通常価格と特売価格を往復する販売方法で、実際の値ごろ感が分かりにくくなっていないか
- 仕入れ先への支払いと、消費者が払う価格の間で利益率はどう変化したのか
- 地域に競合店が少ないほど、同じ商品の価格が高くなっていないか
豪州の制度は、このうちどこまでを証拠で示し、違反として立証できるかを試されます。
今後の注目点は3つ
制度の成否は、法律の強い言葉よりも、ACCCがどの商品を選び、どの価格を問題にするかで決まります。
- 最初の重点商品:家計への負担が大きい食品や日用品が選ばれるか
- 「合理的な利益」の判断:商品別、地域別、全社単位の利益率をどう組み合わせるか
- 実際の執行:警告や改善措置にとどまるのか、裁判や制裁金に進む案件が出るのか
次の具体的な節目は、ACCCによる重点商品の公表です。そこで初めて、新制度が象徴的な牽制にとどまるのか、毎週の買い物に影響する監視へ進むのかが見え始めます。
