EU、売れ残り衣類・靴の「破棄」を7月19日から禁止へ 在庫管理はどう変わるのか|2026年7月15日版
EUでは2026年7月19日から、大企業による売れ残りの衣類、衣類アクセサリー、靴の「破棄」が原則として禁止されます。狙いは、売れなかった新品を焼却・埋め立て・再生処理に回す慣行を減らし、企業に生産量や返品、在庫の扱いを見直させることです。
対象は消費者向けの衣類・靴などで、すべての事業者が一斉に対象となるわけではありません。まず大企業に適用し、中規模企業は2030年7月から。零細・小規模企業は原則として対象外です。
- 開始日:2026年7月19日(大企業)
- 対象品目:売れ残りの衣類、衣類アクセサリー、靴
- 例外:安全上の理由、損傷、再使用・寄付などが適さない場合など
- 次の焦点:企業が余剰在庫をどこまで減らせるか
禁じられるのは「売れ残りを消す」こと
今回のルールは、EUの「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」に基づくものです。対象となる「破棄」には、単なる廃棄だけでなく、リサイクル、エネルギー回収、最終処分といった、廃棄物処理の下位段階が含まれます。
つまり、売れ残った服を素材に戻せば常に問題がない、という制度ではありません。まず再使用、修理、再製造といった選択肢を検討し、衣類を製品として長く使う方向へ企業の判断を動かす仕組みです。
欧州委員会は、欧州では毎年、売れ残り繊維製品の推計4〜9%が一度も着用されないまま破棄され、その結果として約560万トンのCO2が発生しているとしています。衣服そのものだけでなく、生産、輸送、保管に使われた資源まで失われることが問題視されています。
ここがポイント: 禁止の核心は、在庫を「売れなかった後で処理する」モデルから、そもそも余剰を出しにくい生産・販売へ変えようとしている点です。
誰に、いつから適用されるのか
法律上の適用時期は企業規模で分かれます。19日からの対象は大企業です。中規模企業には準備期間が設けられ、2030年7月19日から適用されます。
- 大企業:2026年7月19日から禁止
- 中規模企業:2030年7月19日から禁止
- 零細・小規模企業:原則として禁止の適用外
ただし、対象外の企業が、規制を免れる目的で売れ残り品を別の事業者へ回し、その事業者に破棄させることも認めない設計です。形式上の取引先変更だけで規制を空洞化させないための規定が置かれています。
対象は衣類だけではありません。衣類アクセサリーと靴も含まれます。一方で、この段階であらゆる売れ残り消費財を包括的に禁止する制度ではなく、今後、対象品目を追加できる枠組みになっています。
「一切捨てられない」わけではない
禁止には例外があります。製品の安全や健康に問題がある場合、傷みなどで本来の用途に使えない場合、寄付を申し出ても受け入れ先がない場合、再使用・再製造に適さない場合などです。偽造品への対応や、破棄以外の方法の方が環境負荷を大きくするケースも、例外として想定されています。
これは寄付を万能な出口にしないためでもあります。売れ残りを大量に寄付すれば解決するように見えても、受け入れ団体には保管、仕分け、配送の負担がかかります。再販売や再使用に適さない製品を押し付けることは、問題の移し替えに過ぎません。
例外を使う場合には、定められた条件を満たす必要があります。各国の当局が遵守を監督することになっています。
企業に突きつけられるのは「在庫を持たない工夫」
制度が直ちに価格やセールの仕組みを変えると決まったわけではありません。それでも、売れ残りを最終的に処分する選択が狭まれば、企画・調達・物流の各段階で余剰を減らす誘因は強まります。
特に見直しを迫られるのは、次のような業務です。
需要予測と生産量
大量生産して売れ残りを後から整理する方法は、コストだけでなく規制リスクも伴うようになります。販売データを基に、生産ロットを細かく調整する必要が出てきます。
返品の扱い
オンライン販売では返品品の検品、再販、修理の流れが重要になります。返された商品を新品在庫から切り離してしまえば終わり、という運用は通用しにくくなります。
再販・修理・再製造の出口
アウトレット、二次流通、修理、部品化、再製造など、製品を使い切るための選択肢が経営課題になります。ただし、制度は企業に特定の販売チャネルを義務づけたものではありません。各社が自社製品と物流網に合う方法を選ぶことになります。
2027年には処分量の開示も標準化へ
ESPRには、売れ残りの消費財を廃棄物として処分した企業が、数量や処分理由などを開示する仕組みもあります。欧州委員会は2026年2月、開示の標準様式を定める実施措置を採択しました。この様式は2027年2月から適用される予定です。
禁止の適用外である企業も含め、どれだけの売れ残りがどのような理由で処理されたかが、比較しやすい形で見えてくれば、制度の実効性は「禁止したか」だけでなく「余剰在庫が実際に減ったか」で評価されるようになります。
日本企業にとっても、EU市場で衣類や靴を販売する場合は、製品の供給経路と自社の企業規模、返品・在庫処理の契約を確認する必要があります。EU域外で製造していることだけを理由に影響がなくなるわけではないためです。
今後の注目点は3つ
- 余剰在庫は減るのか:再販やリユースの拡大だけでなく、生産量そのものが変わるかが問われます。
- 例外はどう使われるのか:安全・損傷・環境負荷を理由とする例外が、現場でどの程度使われるかを見極める必要があります。
- 対象品目は広がるのか:衣類・靴から始まる禁止が、他の売れ残り消費財へ拡大するかが次の制度論点です。
7月19日は、ファッション企業の廃棄問題を「企業イメージ」の議論から、在庫をどう設計し、どこまで説明できるかという実務の問題へ移す日になります。最初の開示データがそろう2027年以降、販売量ではなく売れ残りの行き先まで見える企業が、消費者と取引先からどう評価されるのかが注目されます。
